急げ、夕暮れとともに
第一部
第11回
今日はいい天気だ。季節は秋、紅葉の景色が綺麗だ。なにせ俺たちは今空を飛んでいる。上から見る景色はいいものだ、全体的によく見える
(そろそろお昼にしないか)
昨日泊まった宿屋の従業員の鹿女から頂いたおにぎりを食べるため、地上に降りて休憩することにした。
(そういえば大阪から伊賀の国ってのは、真東なのに、なんでわざわざ遠回りしてまで京都に行ったのか、大阪から見れば北東部でしょ)
伊賀の国、未来の三重県のことである。忍者はいるだろうか。
(何を言うか、俺にあの生駒山系を越えろというのか、馬鹿言っちゃいかん)
(へ?)
(あの峠は知っているとは思うが奈良から大阪に通じる唯一の通り道だ)
(だから?)
(お前も鈍いねぇ)
(黙れハゲ)
馬男はハゲではなかったが、つい関西弁のノリで突っ込んでしまった。生前サトシは大阪にて出稼ぎの派遣労働者として生活していた。ろくな人生じゃなかったといつも馬男にぼやいていた。二人とも歳は近いので話しやすかった。
(つまりだな、人の通り道と言う事は悪魔の通り道でもあるんだよ)
(あっ、そっか)
(しかも奈良から大阪の唯一の通り道で近道ときている。今は悪魔どもの大名行列だよ)
(大名行列ってそんなにうじゃうじゃと悪魔どもがいるのかい)
(お前は本当に世間知らずで、何も知らないんだな。まあ当然か、この世界の人間じゃないんだからな。それよりお前の生前の世界はどうだった。悪魔はいたのか)
(やかましい、またその話か。くだらんわ。どうでもいい、思い出したくもない)
本当に嫌気が差している感じで、しばらく沈黙が続いた。やがておにぎりも食べ終わった。
目的地まであと少し、二人は出発した。
しかし本当にそんなに悪魔どもがうじゃうじゃといるのか。そんなにいるならわざわざ避けて遠回りしたのもうなずけるが、いったいどんな感じてなんだ。
馬男に送ってもらう途中、しばしば悪魔の事が気になっていた。俺はここの世界の人間じゃないからな、悪魔なんて見たことがない。
時は夕刻、夕焼けと紅葉の色が重なる。辺りは田んぼや民家すらない。大自然そのものだ。悪魔の事も忘れちまう。そんな夕暮れの田舎の風景だ。
(さあ、もう少しで着きますよ)
(なんかドキドキしてきたな。悪魔め、待ってろよ)
まだ見ぬ麗しの姫君と連れ去った悪魔との決戦
俺は緊張していた。
(勘弁して下さいよ私はまだ死にたくない。着いたら私はもうかえりますので)
(あっそう。まああなたは関係ないか)
当たり前と言えば当たり前の返事だ。彼はただの商売人だしな。仮にも死なれちゃ困るし。
辺りは薄暗くなっている。遥か西には今にも太陽が日没を迎えようとしていた。
(さあ、もうすぐだ。あの山を越えればお城が見えてくるはずだ。私の役目はそこまでだ。しっかり掴まって下さいよ)
もうすぐ太陽が落ちる。暗くなるまでに着かなければ。今までにないスピードで先を急ぐ馬男だった。