京都観光ならず
第一部
第10回
宿に着いた一行は歓迎を受けた。従業員を救ったというので宿代はただになった。部屋は畳の座敷で布団が敷いてあるだけで他は何もない、殺風景というかいたってシンプルな部屋だ。部屋は10畳くらいはあろうか、何もないので以外と広い。今日は俺たち以外に客はいないという事なので、一人で部屋を使わせていただく事が出来た。フロに入り食事を済ませ、さて今から寝ようとしたそのとき男の声がした。馬男ではない。
(お客様、ちょっとよろしいかな)
(どうぞ)
足音がしたので誰か来たと思えば店主だった。
俺は期待していた。マッサージ師でも連れてきたのか、もちろん普通の人間の女だろ。
(お客様、聞くところによりますと伊賀の国へいかれるそうで)
馬男のやつプライベートな事を他人に言うなよ。まあ別にそれくらいはどうでもいいけど。
まさか俺が幽霊だなんて言ってないよな。言ったところで誰が信じるものか。ちゃんと足はあるぞ。
(そうですね。ここからだと明日中には着きますよね)
(実はその事でちょっとお話しがありまして)
なんだなんだ、事件か困りごとか、はたまた道路工事で通行止めか。しかし残念だったな、わしらは空から来たんやで。
アホちゃうかと突っ込まれそうなので大人しく話を聞く事にした。
(今あの国に行くのは危険です。悪い事は言わん、止めときなされ)
(なぜだ)
(今あの国には人を喰らうという恐ろしい化け物が居ると聞きます。これは噂ですが、どうやらその国の姫がその化け物に連れて行かれたと)
(バカヤロー、俺様を誰だと思っていやがる、そんな悪魔か化け物かしらんがな、今度はハリセンでしばいたるわ)
店主は思った。この男は死んだと。
しかし目の前にいる男は普通の人間ではない。すでに死んでいる、恐いものなしだ。どうりで先ほどから調子のいいことをべらべらと。
(どのような事情かは知りませんが、お気を付けて。まあ悪魔を退治してくれたお方だ、大丈夫とは思いますが)
(実はひで、いや猿男からその姫君を助け出してくれって頼まれていたんだ)
秀吉なんて言えばあの信長の関係者だと思われて、なんか話が面倒くさいので猿男と言った。猿男と言っても顔はイケメンなのだが。
(なんと、そうでしたか。やはり出来る男は違いますな。あなた様ならきっとあの悪魔も退治してくださることだろう)
(そっすね)
なんと軽い適当な男だ。相手は悪魔だぜ。まさか今度も下級悪魔ではあるまい。
(期待していますぞ。ではこれで失礼します)
こっちは期待外れだよ。マッサージ師か、なんか旅の役に立つ品をくれるものだと思っていたのに。俺は期待していたのになにもなかった反動でよけいひどく疲れた。
(もう寝る)
薄暗い部屋のローソクの火を消した。
翌朝、俺たちは何か企んでていかにも悪そうな笑顔の店主と、目は鹿のように大きくて可愛いい鹿女に見送られ、まだ薄暗い夜明け前に出発した。今からだと夕方には着くだろう。それに馬男と一緒に飛んでるところは誰にも見られたくない。紅白ハチマキに体操着、これは運動会じゃない。
それにしてもここは京都、せっかくだからこの時代の金閣寺や清水寺など見物したいが、遊んでいる暇はない。一行は先を急ぐのだった。