悪魔は許さない、絶対にだ。
第一部
第8回
(ちょっと待ってよ、速いよ)
さすが元は馬だけにめちゃくちゃ速かった。俺は口を大きく開けて息をしている。
(なんだ、もうバテたのか、これだから人間は悪魔なんかに)
(はいはい普通の人間は悪魔に太刀打ちできませんよ)
(何言っているんだ。あんたは普通の人間じゃないだろ、それで隠してるつもりか、変な事を言うやつだな)
衝撃的だった。サラッと俺の秘密を言いやがる
(知っていたんだ)
(当たり前だ。あんたはもう、死んでいる。どこから来たんだ)
(俺の事はいいんだ)
もう、読者は知っている。
(それよりいったい何者なんだ。ただの人、いや馬じゃない。もしかしたら元はこの街の馬なのか、やけに詳しいじゃないか)
人を詮索するのは好きじゃない。しかし気になっていたのでこの際本人に直接聞いた。
(そうだよ、この街で元は馬として人間に飼われてたんだ)
(やっぱりね、どうりで詳しいはずだ)
(あいつが、魔王が。俺たち動物を人間の姿にに変えたんだ。そうだとも俺はこの街で人間と一緒に暮らしていた動物だったんだ。魔王に姿を変えられ人間として生きる事になり、出稼ぎの為に大阪で働くようになったんだ)
(最後の言葉はやけにリアルだな。出稼ぎってせっかくの俺のファンタジーな世界観が台無しだよ。気分ぶち壊し、もう仕事や現世の事は思い出したくない)
俺はいい夢の途中で、冷たい水をバケツでぶっかけられたような気分だった。もちろんそんな経験はない。
(さあ早く、ぐずぐずしてると見失う)
会話もそこそこにして、二人は女の悲鳴の聞こえた方角へと走り出した。
(ふん、これはまるでゲームや漫画でよく見るワンシーンだな)
意外と冷静な状況把握、というかファンタジーな世界観を楽しんでいるのか。今のこの状況でお前はゲームや漫画の話をするのか。悪魔を目の前にして余裕だな。さすがは救世主様、勇者様、将軍様、上様。
和服姿の女性が一匹の悪魔に睨まれていた。
(悪魔め、まだこの街にいたのか。サトシ、どうする)
(だから言っただろう、俺は一方的にやられるのは我慢出来ない、それが誰だろうと)
考える暇もなく気付けばサトシは悪魔に立ち向かっていた。何も考えてない。ただ目の前での出来事が許せなかった。
ヒーローや救世主を語るつもりはない。ただ俺は悪魔は許さない、絶対にだ。
(行くぞ)
(そうこなくっちゃ)
二対一ならなんとかなる。武器になるような物は何ももってなかったが、その激しい情熱だけが大きな強い武器だった。