マリアの過去そしてルシファーの秘密
第三部
第十六回
(なんだそうだったのか、悪い悪い)
ギンチヨは悪びれた様子もなくただ浮気の疑惑が晴れてニコニコしていた。
(でもまさか犬、じゃなかったマリアが元ルシファーの側近だったなんて。みんなは俺が気を失っていた時にはその話はもう聞いてたんだろ)
みんなは無言でうなずく。
(俺があの犬を前から可愛がっていたのは知っていたんだからギンチヨだって少しは想像出来たはずだろ)
(なにが)
少しは空気を読んでくれギンチヨ。
(俺とマリアはもう信頼関係が出来ていたんだって事さ)
(だからすぐ浮気したんだな、このドスケベ)
(だからあれは毛づくろい、いやただのスキンシップだって)
(分かった分かった)
やっとギンチヨは納得してくれた。でも風呂の話はやめておこう、また振り出しに戻るから。
(でもマリアはどうして人間たちの世界に、ルシファーにイタズラされて嫌になったのか。あの野郎、許さねぇ。こんなに素敵な女性を悲しませて)
(サトシ、なんかギンチヨに似てるよ)
ティアの言葉で一堂が笑う。
(そうだったわね、まだ私の事は詳しくは伝えてはいませんでしたね)
マリアはおもむろに語り始めた。
(サトシよく聞いて下さい、私はルシファー配下の悪魔だった。もっとも正確に言えばルキブクスの直属の使い魔とも言うべき存在だった。私はルキブクスの命令で人間たちの事を調べる活動をしていたの。やがて到来する世界規模で始まる悪魔と人間の大戦の為に)
(昔からルシファーは計画していたのか)
(そうよ、何千年もの昔から。でも私は悪魔の失敗作ね)
(失敗作って)
(人間たちの世界に入り込んだ私はいつの間にかその世界に興味を持ち憧れてた。それが裏切りの危険人物と見なされてルキブクスに犬にされたの。それから私は毎日悪魔からの逃避行の生活だったわ)
(そうか、あの時あの川で悪魔がマリアを、いや犬をいじめていた理由もそのせいなんだな)
マリアは小さくうなずく。
(結局ルキブクスは私を殺しはしなかった。私を犬として一生悪魔から追い回されるようにするために、孤独で辛くても誰も助けてはくれない、なぜなら私は彷徨う野良犬だから)
(野良犬でも俺、犬は好きだな)
(また調子のいい事を)
すかさずギンチヨのツッコミが入る。
(私は本当に嬉しかった。一人で悪魔に立ち向かい私を助けてくださった事に感動しました)
(いやいやあんな雑魚悪魔余裕ですぜ、ぐふ)
鼻の下を伸ばしたサトシは絶妙なタイミングでギンチヨの肘鉄を食らう。素晴らしいツッコミだ。
みんなが笑う。
(みなさんそれからサトシの勇気に答え、私はルシファーの秘密を教えます)
(まじッすか)
サトシ以下、みんな安堵の表情を浮かべいる。
(ルシファーの秘密、近代兵器や人間の常識などは全く通用しない。そして奴には人間には無い魔力がある。唯一対抗できるのはサトシ、あなたが持っているその覚醒した力だけです)
予想だにしないルシファー、そしてサトシの覚醒した力。みんな大人しく黙ってマリアの話を聞くしか出来なかった。
(それとみんなはルシファーのカオス計画はご存知かしら)
全員首を横に振る。
(まあ簡単に言えば迷っている人たちをそそのかし、人間たちと契約を結んでおいて、悪魔の力と引き替えに人間から生態エネルギーを吸収する。吸収された人間たちはやがては悪魔になるの。最近よく見かけるでしょう、暴力的で秩序を失い魔人化した人間たちの姿を)
(ああ、あの人間のような化け物の事か)
(つまりその魔人化した人たちを利用して健全な人間たちに対して戦いを挑んでくるのね。悲しい事だわ、同じ人間同士なのに)
あまりの展開に皆は付いていけず、ただ静かにマリアの話を聞くしかなかった。
(でもあの時は危なかったですねサトシ。さすがルシファーの側近中の側近)
(ん、ルキブクスの事かい)
(ルキブクスは自由に人間の姿に変えられる事が出来るの。やがて狙った人間と同化するの、そして心を奪われ最後には体を乗っ取られる)
(確かにあの時は自分を忘れてたな。まさか俺の心の闇があんなにも巨大化するなんて)
(だから私はあの時、ルキブクスをあなたから分離させようと思い足に噛み付いたのよ、ごめんなさいね)
(いやいや俺様はあんなの大したことないぜ、ぐふ)
またもや絶妙なタイミングでギンチヨの肘鉄が炸裂する。
(すべての四天王を倒し、大阪城を取り巻く結界は消滅しました。今こそ決戦の時です)
みんなは一斉にサトシを見つめる。
(みんな俺に力を貸してくれ、一日でも早い平和の為に)