伝家の宝刀を抜く
第一部
第17回
せっかく深い眠りに付いていたのに伝令兵に朝っぱらから叩き起こされた。
(サトシ殿、大変です。姫君が)
(はぁ)
なんだと言うのだ、叩き起こされて頭が痛い。
(また悪魔に取り憑かれてギンチヨ様に)
まさか生きていたのか。いや違う、悪魔はまだ倒してはいない。様子を見計らって油断したすきに取り憑いたのだ。しかも今度は城内で。
(どこだ案内せい)
素早く着替えると伝令の案内でギンチヨのもとへ急いだ。ギンチヨは天守閣の1番上だ。城内が騒がしい。女子供は怯えている。早く避難した方がいい。
(悪魔どもめまさか直接天守閣に乗り込む気か)
悪魔は空が飛べる物もいるだろう。大部隊で悪魔の逆襲が始まるのか。サトシは天守閣に繫がる狭い急な階段を登り最上階へたどり着いた。
そこで目にしたものはなんと妹のルナが姉のギンチヨに斬りかかろうとしていた。
(やめろ)
俺は今までにない張りあげた声で止めに入る。その時の妹はまさにあのお堂で会った時と同じだった。髪はぐしゃぐしゃで、目が赤に光ってい。今は人間じゃない、何をするか分からん。
(サトシ、あの剣を抜け)
俺は首を横に降った。彼女は悪魔に取り憑かれているだけだ、斬ることはすなわち死を意味する。殺すことは出来ない。仕方ない、今度は中段回し蹴りでも食らわすか。
格闘技なんて知らない。適当に言っただけだ。しかし俺は男、それくらいの事はやってみせよう。顔に入ったらごめんなさいね。
間合いを詰めていく。射程圏内だ、いつでも行ける。
(このやろう、死ねぇ)
(それはお前じゃぁ)
それは一瞬だった。皆が気がついた時にはもう勝負はついていた。サトシが馬乗りになり動きを封じている。
ルナはサトシに斬りかかろうと両手を挙げたその隙に物凄い勢いの体当たりで吹き飛ばした。
考える暇などなかった。もし相手が男ならどうなっていたか分からない。逆に弾き返されたかもしれない。
(今だ取り押さえろ)
ギンチヨの掛け声とともに侍たちが一斉に取り押さえ縄で縛る。もう大丈夫だ。
ルナは突き飛ばされて意識を失っていた。
(フン、所詮は女か、まるで役に立たぬわ)
みな声がした方に一斉に振り向く。そこにはなんと悪魔が立っていた。
(化け物め、サトシ剣を使え)
それは明らかに人間の姿ではない。わずかに宙に浮いている女の悪魔だった。顔は美しいが奇妙な鎧を身に纏い、目は赤く髪は長くて床に付くほどだ。しかし武器は持っていなかった。
俺には悪魔殺し剣、デビルスレイヤーがある。そこに恐怖と言う感情はいっさいない。すべてはこの剣にかかっている。剣を抜き、目の前の悪魔と対峙していた。
勝負は一瞬だ、少しの油断が死を招く。相手は得体の知れない化け物だ。どんな攻撃をするか分からない。
まばたきする暇もないくらい俺は悪魔を睨みつけていた。