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ここは摩訶不思議な死後の国。

この現実社会からおさらばしたく、ちょうど運良く?俺は車に跳ねられ死んでしまった。意識が回復した時にはなぜか戦国時代へと逆行転生していた。そしてここは死後の世界。


さあ、行こう。何者にも縛られない、剣と魔法と夢の国へ。そこでは人間の常識など通じない、見た事もない奇妙な生き物、そして悪魔たちが住むローファンタジーな世界だった。



第一部


第1回


(お疲れ様です、おっさんです。29です)


突然ですが私の話を聞いてくれますか、私の名は伊賀上野サトシ。仕事はただの工場勤務の派遣労働者です。職場まで東大阪市から海沿いの町の堺まで通勤時間込みで毎日15時間、家と会社の往復です。


私の職場、ここ某営業所の所長は見るからに性格がキツいばばあです。別名ピンハネばばあと呼ばれていました。それはそれは金の亡者でみんな最低賃金で働かされていました。口癖は決まって嫌なら辞めろでした。


それからもう一人、年齢は49歳でパワハラの権化のような男。こいつは嫌いなので割愛します、もう思いだしたくもない。とにかく人を人とも思わぬ鬼畜たち、早く死ねばいいのにな。


29歳男、大阪で独り暮らし。俺は今まで一人ぼっちで生きてきた。もちろん女なんて知らない。興味はあるし何回かデートはしたことあるが、同じ顔を再び見ることはない、絶対に。


仕方ないさ、俺はイケメンじゃないし金もなけりゃ優しい言葉の掛け方も知らないし、おまけに何の魅力も感じないと言われた事もある。確かに俺は4kじゃないから良いところが無いだろうけどそもそも理想が高いんだよこの女どもめが。


もちろん4kってのは分かるよね!高学歴、高身長、高収入、そしてイケメン。ああ、穴があったらこんな人生はもう逃げ出したい。俺の人生は29歳にして負け組確定よ借金だってある。


(三十歳迄には結婚して、当たり前の幸せを味わいたかったな。いやこのままだと一生結婚出来ないかもな。俺には普通の人生を送る権利すら無いと言うのか。まったくこの世界を憎むぜ)


おっと冒頭から見苦しいところを見せてすまない。簡単な紹介はさておき、実はこう見えてなんと俺はもう死んでます。


今からほんの数分前、俺がまだ生きていたころの話なんだが、歩行者用信号は青だったにもかかわらずその車は突っ込んで来やがった。理由はどうであれ信号無視と言うやつだな。


これも偶然なのか何の因果か知らないが、たまたまそこに居合わせた若い女を助けようとして身代わり俺が車に引かれて死んでしまったと言う話だ。


胸騒ぎと言うか、嫌な予感がしてたんだ。しかしまさか自分が死んでしまうとは、あとで分かってもそんな事は後の祭りだった。


結局その女は助かったのだが、実は何と近所の見覚えのあるスタイルのいい若い女だった。もちろん話した事はない。どうせこうなる事が分かっていたならもっと積極的に話しかけるべきだったと後悔したところでもう遅いのだ。


こうして俺の短い人生は終わった。なに別にいいんだよ、家と会社の往復だけのつまらん生活環境だ。毎日いやいや働く仕事と毎日すし詰めの、おっさんだらけの満員電車だマジ勘弁してくれ毎日おっさん地獄だ。


しかしそれもこれも今日でおしまいさ。あの醜いシワだらけの玉ねぎババアや力任せのパワハラ男に関わる事はもう二度と無い。もうこんな生き方にうんざりしていたところだ。これでちょうどよかったんだよ、どうせ俺には金もなけりゃ女も居ない、もはや死んでも後悔はしない。


(さようなら、俺)


ああ体が痛い、熱い。道路に横たわって声も出ない。なにやら遠くの方で声がするが、もはやどうでもいい。この世界に未練なんてあるわけない。もう何年も親兄弟とさえ話していないし。結局俺は結婚する事も出来ずに死んでしまった。そうさ俺の人生は薄っぺらいもんさ。ろくな人間にしか会ったことがない。


俺は力を振り絞り、声のする方に向いて目を開ける。すると先ほどの女性が視界に入った、意外にも声の主はこんなにも近かった。意識がもうろうとしていて実際の距離感が分からなかった。そしてもはや何を言っているか理解不能、俺の脳は半分以上休眠状態だ。振り向いて目を開けるのが限界だった。もうこれ以上何も出来ない。ひどく疲れた、それに眠たい。


そういえばこの女性は何の仕事しているのかな。可愛い服装やな、まさかメイド。これが本当の冥土の土産だな。男はいるのかな、この色っぽい姿をしっかりと目に焼き付けておかずにしてあの世にもって行こう。


もう体は熱くも痛みも無かった。そろそろお迎えのようだぜ。いやこれでいいんだ同情などくだらん。これでこの嫌な社会からおさらば出来るのだから。


この世に未練を残して死んでしまったらろくな霊にならないと言うがそれは大丈夫です。なぜならばこの世にもう未練など無いのだから。とは言ってもやっぱり結婚は生きてる内にしたかったけどやっぱり無理だった。私の事を理解してくれる女などこの世にはいなかった。ああダメだ意識が遠のいて行く。


それにしても俺はつまらん人生だったな。かすかに響く救急車のサイレンの音が遠くの方で聞こえるが、もう手遅れだ俺はこの世界に未練は無い。今まで生きていても何の楽しみもなかった。サイレンの音が近くになる。俺を助けに来たのか、しかしもうどうでもいい事よ。俺は疲れたんだ。この世界のお前らよさようなら。


(おやすみ俺、お疲れ俺)



第2回



(なんだかしばらく寝ていたような気がする)


ここは死後の世界か。確かに俺は車に引かれて死んだんだ。もう時間の概念なんて関係ないし嫌な会社に行く必要も無い。大嫌いな満員電車のおっさんらも俺の人生にはもはや関係ないんだ。いくら寝ようと俺様はもう自由だ。


(ここはどこだ)


何だか田舎くさい景色だな。まさかここは戦国時代か。だってみんな着物姿でちょんまげしてる。どうやら俺は死んで昔の日本に飛ばされたらしい。しかしなぜだ、死んだら人は無に帰り魂は消滅するのではないのか。なぜ俺はこんなところに、しかもちゃんと足付いてるし。俺は確かに死んだ、しかし死後の世界がまさか戦国時代とはね。なんかドキドキするわ。この気持ち分かってくれますか。


(何じゃあれは)


俺はあまりにも衝撃的なもの見てしまって、思わず指を差しながら叫んでしまった。


こんな世界があってもいいのか?こんなの学校で習った戦国時代じゃない、これは夢なんだ。そうさきっと俺は夢を見ているんだ。こんな世界はあり得ない、いくら死後の世界といえど。


目の前ですごい物を見て衝撃を受け、俺は混乱してしまって頭の中でごちゃごちゃ会話してる自分がいた。


(そうか、分かったぞ。ここはファンタジーな戦国時代か、なんだかおもしれぇじゃねぇか)


和服姿の人々、髪の毛の色が黒はもとより赤青黄緑、色とりどりのちょんまげ姿の現地人たちは何やら立ち話。そして極め付けが犬や猫が二足歩行で買い物カゴを持ってお出かけ中のようだ、その姿はまるで人間そのものだ。さらにこの猫に至っては真似をしたのか、人間のようにちょんまげをしている。名付けてニャンまげだな、かわいいじゃねぇか。雨の日なんか長靴を履いているのだろうか。長靴を履いたニャンまげってな。素敵じゃねぇか。


他に目線を変えるとあの広場では、ブタが人間のようにたき火してる。自分で焼豚になるつもりか。


どうやら本当に俺はファンタジーな世界に迷い込んだらしい。だがここは間違いなく日本の戦国時代だ。袴姿で刀を持つちょんまげの侍も見かける。時代劇や大河ドラマに出て来るような景色だったがどうも様子がおかしい。


(どうやら俺はあの時に死んで変な世界に迷い込んだか。これが俺の死後の世界、謎だらけのミステリーワールドと言うやつか)


動物が人間のように話すここはまさにミステリーだ。しかしどちらかと言えば空想幻想ファンタジーな世界のようだが。


(ああ、なんなんだここは。もう訳が分からなくて頭の中がグチャグチャだ)


まてよ、考えたところで俺はもう死んでるからどうでもいいじゃないか。もう考えても意味のないことだ。俺は自由だ誰にも縛られない、病気も借金も無い。毎日毎日嫌な奴らの事など考えなくてもいいのだ。その事を考えれば目の前の景色など実に愉快でハッピーだ。


せっかくだからこの世界を楽しもう。なにせ俺はもう死んでるからな、そうさ夢の世界さ。


(マンガだよマンガの世界に入り込んだんだよ)


自分で自分に言い聞かせる事で冷静さを保つ事が出来た。というか目の前の現実を受け入れるしかなかった。どうやらここは人間の常識など通用しない世界のようだ。あれこれ考える事自体無意味だ。


そうさ、俺は自由なんだ。これからはここでファンタジーな世界を楽しもう。今までは毎日おっさんだらけのすし詰めの満員電車で座席の取り合いなど、もう下らない事はしなくていいんだ。俺は死んで自由になったんだ。借金もどうでもいい。腹も減らないし病気も無い。もちろんブラックな会社に行かなくていい、好きなだけ寝てやるんだ。


この男は何て明るくて前向きな思考の持ち主なのだ。知らない土地で気が付けばここは摩訶不思議な戦国時代。お前は怖くないのか、まるで子供のように無垢で無知だ。しかしこれから迫り来る出来事なんて、この男には知るわけもなかった。


第3回


(お主は南蛮人か)


異国の者が我が日の本に立ち入ること叶わぬ即刻死刑だ。


(俺は日本人だ、見た目で判断するのですか)


立派な城に連行されて根掘り葉掘り尋問を受けるかとおもいきや、いきなり処刑だとそんな馬鹿な、早くも俺の第二の人生の物語が終わってしまう。


俺はこの時代の人間じゃない、確かにその見た目から不審者扱いされても仕方ない。そしていきなり地元住民に捕まって即刻死刑って。やれるもんならやってみろ。でも残念だったな、実は俺はもう死んでるからな。


いつもより強気の俺、今までこんな事は一度たりともなかった。なぜなら会社の奴らに強気に出ればもう頭と胴体は繫がっていない、つまり即クビだ。そして奴らの決まり文句がこれだ。お前らの変わりは腐るほどいると。だが今の俺は違う、もう何も怖くはない。


しばらく押し問答が続いた後、その男から名前を聞いて俺の心臓の鼓動が速くなった。


(偉そうなおっさんと思ったが、まさかこの男があの織田信長とは)


よくよく考えるとここは戦国時代だし、教科書で習った侍たちに出会える事は別に不思議じゃない。しかし納得いかない事がある。なぜ信長が俺の元職場のパワハラ上司とそっくりなんだよ。偉そうなところもそっくりだ。


考えたところで答えが出るわけじゃないし、この目の前の男は紛れもなく織田信長だろう。あのパワハラ上司が俺と同じようにこの世界に存在する方があり得ない事だ。


しかしなんで俺の夢の世界で現実社会の嫌な上司にまた指図されなきゃならんのだ。まったく嫌になるぜ。


(せっかくのファンタジーな気分が台無しだ)


俺はもうあの頃には戻りたくない、ああそうさ、いろんな意味で負け組の人生だったさ。いつも一人ぼっちだった、だから人の温もりなど知らん。何で俺はこんな人生を歩まなければならないのかいつも自分に嫌気が差してたくらいだ。だから結婚には夢見ていたが、死んでしまった今となっては馬鹿馬鹿しい話だ。


自分から死ぬつもりはないが、結果的に死んでしまった今でも後悔はしていない。いやそれどころかむしろワクワクしているよ。


俺はもう死んでいる。もはや恐れる事など何も無い。しかもここは戦国時代だ。合戦があるたびその気になればいくらでも褒美は貰える。もっとも俺は人斬りで戦功を建てるつもりなど毛頭ないが。


一方の信長、即刻死刑と言ったものの、実は処刑する気は本当は無いらしい。なぜなら信長は俺に取り引きを持ち掛けてきたからだ。



(お前の命は我が手の中にある。死にたくなければ忌々しい禍々しい悪魔どもを駆逐しろ)


何が取り引きだ、断れば即刻死刑。鳴かぬなら殺してしまえホトトギスですか。俺はお前の奴隷じゃねぇ。もう誰の指図も受けぬ。



(は?今なんと?悪魔どもを駆逐だって)


俺は耳を疑った。信長の口から悪魔をなんとかしろだと。まさかここには悪魔がいるのか。しかし何で俺なんだよ。俺は不幸せなただのおっさんだよ。それにあんたこの国の王だろ、自分たちでなんとかしろよ。


まあたしかにここは不思議なファンタジーな世界だから悪魔だっているだろうよ。ここは夢の国、悪魔だろうが鬼だろうが望むところだ。だいたい俺はもう死んでるからな、もう今更何があっても怖くはない。


この世界は教科書で習った戦国時代と似ているがやっぱり違う。いや全然違う。ここには悪魔がいる、変な動物の生き物もいる。人間だって何かおかしい。それに見たくもない元職場のパワハラ上司もなぜか織田信長としてこの世界にいる。


まさかここに来てまたパワハラですか。ここは俺の夢の国、ファンタジーな世界じゃないのか。リアルな本当の現実世界はもう勘弁してくれ。いい事など何一つなかった。思い出したくは無いんだよ。


(あなたはこの国の王、悪魔くらいあなたの力をもってすれば何とかなるでしょう)


当たり前の質問を信長は俺に背を向けて聞いていた。マント姿ににワインを飲む、しかしいくら説得しても聞く耳持たず、勝手にその見た目から救世主扱いされる始末。とりあえずこの支度金で準備を整えろと。


(ふん、拒否権は無しか)


やっぱり信長もあの馬鹿なパワハラ上司と同じか。人の意思など関係ない、どうりで顔が似ている訳だ。


数分間沈黙が続いたのち、見たくも無いパワハラ男改め、織田信長の後ろ姿を見ていると、向こうから語り掛けてきた。


(いい日旅立ち日本のどこかで、お前を待っている、姫君がいる。さあサトシ、旅立つのだ)


信長め良いことを言う。これはもしかすると悪魔退治の褒美に美女と結婚出来るかもな。


しかし残念な事に信長の顔は元職場のパワハラ上司に似ているのでせっかくの気分がぶち壊しだった。奴らの顔など二度と見たくない。それから何度でも言うが、どうせなら俺はこのファンタジーな世界をエンジョイしたい。俺様の第二の人生の始まりなんだ。


俺はすぐに返事をした。今まであれこれ考えていても仕方がないし、何も始まらない。とりあえずやるだけの事はやってみよう。俺はこの世界で生きたい、楽しみたいのだ。


(俺の事を待っている姫君がいるだって?本当かよ、じゃ今からすぐ行くよ)


我ながらなんて単純なんだ。でもあわよくば本当に麗しの姫君と結婚なんか出来たりして。


別に今更元の世界に戻るつもりはない。それにどうせ元に戻ってもまた家と会社の往復なんだからな。ならば俺はこの世界で生きていく!ここは見たこともない世界で何かドキドキするんだよ。そして悪魔を追っ払って麗しき姫君と結婚するんだ。



訳の分からないまま信長に会い悪魔や空想の生き物と出会い、俺はいったいこの先どうなるんだ、なんかワクワクする。こんな気持ちは初めてだ。どうしてこんな摩訶不思議な世界にたどり着いたのかは分からないが俺は新しい人生をここで送ろうと思った。


(サトシよ詳しいことは家来に命じてある)


(分かりました。では行ってまいります)


(よいかこれだけは約束せい、死ぬなよ)


だから俺はもう死んでるんだよ、分からないのか。もう何度も同じ事を信長に説明する気力は無かった。


それより今、俺の頭の中は新婚生活の夢と希望でいっぱいだ。前の世界では夢想だにしなかった夢が叶うんだ。こんなに楽しい事はない。


俺はさっさと悪魔討伐を承諾し、信長の家来のところへ行く事にした。とりあえずあって詳しい話を聞こう。





剣と魔法と夢の国。時は戦国、ジパングと言う名のファンタジーな死後の世界。人間の欲望で生まれた世界だった。人は無欲では生きられない。物欲 怠惰 嫉妬 傲慢 憤怒。


悪魔はこれら人間の欲の感情や肉体そのものを、自分たちの生体エネルギー源として、つまり食料としている。直接口から摂取する悪魔たちもいればマインドエネルギー、つまり精神を食らう者もいる。


そして人間と悪魔、天使も加わりラストハルマゲドン、最終戦争が始まる。運命の歯車は主人公を中心に回って行くのであった。


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