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平成カワナカジマ  作者: でん丘じん介
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 半戦国 半現代 半白髪③ 会議室の舌戦

「一条氏らの示す施政方針は、過当競争を強め、その弊害を広く発生させる。貧富の差が拡大し、この地は間違いなく荒廃する――という声が城下で上がっていますが、それに関してどう思われるでしょうか」

 幹部席の男の冷ややかな声が、半武将姿の一条と二人の若い無名武将に向けられる。場所は本丸にある天守ビルの会議室であり、対決の全主要参加者がそこに集められていた。

 まるで咎めを受けたように問われ、一条はあたふたとうろたえるだけだった。それで若い武将役――浅利則祐と少弐冬尚――の二人が何か言い出そうとする。すると彼らを制して、その背後にいた人物が席を立って言った。

「今言った指摘はまったく的を射ていない。確かに競争を促進させれば経済的な差が開くだろうが、そのことによって多くの者が潤うはずで、全体的に貧困者は減る。むしろ貧困者が多く発生する可能性があるのは、たいした方針も打ち出せないご老体方の方だ」

 反論に出たのが、一条に次ぐ副将的立場である、役人姿をした半白髪の若者だった。その鈴木春一郎という若者は、体は幹部席に向けながらも、切れ長の目は反対側の席に向けていた。そこにいた北条や今川ら中高年者たちは、自分たちに敬意も払わないどころか、完全に年寄り扱いして愚弄するその若者の態度に、一様に表情を険しくし敵意を向けた。


 先の普請対決の中断後においても、幹部はうろたえるだけの武将―—その時は斯波―—とともに、他の若手の責任者に問い質した。

「斯波氏たちは成果を重視するあまり、作業者に過酷な労働を強いたと聞ました」

「働きの悪い者のクビを少なからず切って路頭に迷わせたとも」

「城下への風聞も考慮せず、人間的に問題がある者を雇って使ったそうですが」

「斯波氏の作業は一見速く進んだように見えるが、実際に行ったのは穴だらけの手抜き工事に違いなく、耐震偽装の疑いがあり正当な評価に値しない――という声が城下で上がっていますが、それに関してどう思われるでしょうか」

 その時も加藤清正、藤堂高虎、池田輝正などに扮した中高年者たちが微かに口元を歪めた。対決が中断した理由は、彼らが徒党を組み、城下一帯を管理・管轄する足加賀(グループ)に審議会を開くよう訴え出たためだった。

 そこでもうろたえる斯波に代わって、作業着姿の春一郎が各声に反論した。

「休息等を含めて、働き方は作業者の自主性に任せただけのこと。彼らの働きを正当に評価し報いもせず、ただ無駄に働かせて、立場で抑えつけている他の老将方の方がよっぽど無理強いをしていたと思いますが?」

「それにクビを切ったのではなく、周りについてこれない者が勝手に辞めただけ。不満の声というなら、無駄事が多く、満足に人を活かせず、組織をまったく機能させられていなかったというご老体方の集団の方が、よほど大きく上がっていたとこちらは聞いていますが」

「作業者の管理とは問題の詳細も聞かず風聞で判断し、人材を飼い殺しにすることではないはず。それに作業者の転籍には正式な手続きを踏んだはず。耄碌(もうろく)して覚えていなからといって、後になって引き抜き問題にされては困る。そしてご老体方が小事にこだわって有能な人材を見抜けず、彼らを使いこなせない器の小ささをお持ちだからといって、それを他人のせいにされても困る」

「手抜き工事や耐震偽装だと言うなら、実際に自分の目で見てみればいい。老眼で視力が衰えていなければの話ですが」

 体は幹部席に向けながらも、切れ長の目は反対側の席に向けて声を上げたので、そこにいた半武将姿の加藤や藤堂らは皆一様に表情を険しくして敵意を向けた。


 その時と同様に、今も向けられた敵意に少しも怯まず、逆に鋭い視線を向け返す。そうしながらも、春一郎は内心で手応えを感じていた。

(この会議の情報は、城下の高札などに配信される。中高年者たちを挑発し、上役や他の若手に無名武将役を受け入れさせれば、状況を見る者にとってはわかりやすい対立図式となる。そして労力は大きいが、それを補う手を打ちこちらがハンデをはね返せば、かえって城下の人間の注目や関心、そして出資者の後押しを得られ、より躍進が可能となる)

 停滞に苦しみ現状を倦むこの地の者たちは、実力があることはもちろんだが、ありきたりな施政者より、意外で新たなそれの出現をかえって望んでいるとも感じていた。

 そうして事はほぼ予想通りに運んだ。この後、また対決があったとしても、中高年が相手であればおそらく乗り切れるだろう。

 ところが事態は思いもしない方向へと向かった。


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