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白磁人形の憂鬱4

 次の日の放課後、ゆかと要は瀬戸遙の親しかった友人のひとり河内早紀をたずねた。

 放課後の図書室では何人もの学生が本を読んでいたが、その端で河内早紀を見つけた。

「あたしも遙のことはほんとうに心配してるの。でも、警察にもいろいろと聞かれたけれど、あたしも遙がいなくなった原因をなにも知らないんだって」

 早紀は申し訳なさそうに頭を振る。

「瀬戸さんがなにかに悩んでいたりトラブルに巻き込まれてたりってことはない?」

「あたしの知ってるかぎりじゃ、家出に結びつきそうなほどに深刻なのはないけど……」

 早紀の口調が妙に歯切れが悪い。

「なにかあるなら教えてくれない?」

「でも、こんなこと言っていいのかなあ」

「知ってることがあるならなんでもいいから教えて。河内さんには迷惑かけないから」

 早紀は根負けしたのか大きく息を吐いた。

「鷹野くんはよく知ってると思うけど、あの子物事をはっきり言うタイプだったでしょ?」

「ああ。よくも悪くも嘘のつけないやつだよ」

「だから、クラスの子の間でもあの子のこと好き嫌いがはっきりわかれるみたいで、友達も多かったけど敵も多かったのよ。あたしはあの子の正直なところが好きだったんだけどさ」

「瀬戸さんってそういうひとだったんだ」

 ゆかは瀬戸遙のことは要の恋人としてしか知らない。

 ふたりが登下校するとき、一緒に手をつないで歩いているところをよく見かけた。遙が手をからめて体までもたれかかる姿は、見ているこちらが恥ずかしくなるくらいだった。要も恥ずかしそうな顔をしていたことが印象に残っている。

 告白するときも遙のほうからだというし、ずいぶん積極的な子だったのだろう。

「敵が多かったということは、いじめやいやがらせもあってたってこと?」

早紀はしーっと指を口においてから、

「まあね。遙は一学期の最初の頃クラスの子たちとよくもめてたのよ。そういう子だってわかればわりきれるけど、まだ学校に入学したばかりだったからおたがいの性格もよくわからないでしょ? だから、口論して他の子を泣かせたこともあったの」

「そうだったのか。でも、おれにはなんの相談もなかった」

「鷹野くんのせいじゃないよ。だって、あの子、自分の問題は自分でなんとかしようとする子だったんだもん。たぶん鷹野くんに心配かけたくなかったんだよ」

 早紀のなぐさめの言葉にも、要は納得がいかない顔をしていた。恋人が苦しんでいるときに助けられなかったことをふがいなく思っているんだろう。

「だから、一学期の最初の頃はいやがらせもよく受けててね。ジャージをカッターで切られたり、上履きをゴミ箱に捨てられてたりされてたのよ」

「なんてひどいことするの」

ゆかが猛然と怒りをあらわにすると、早紀はくすりと笑って、

「あたしもそう思ってた。でも、遙は〝いじめるようなやつは隙を見せたら助長する〟って、なにをされても平気な顔をしてたから。だから、いじめもだんだんなくなっていったのよ」

「ほへえ。すごい子なんだね」

「うん。あたしも感心しちゃった。中学の頃にもいじめられてた子を助けたことがきっかけで逆にクラスの女の子たちからいじめられたらしいんだけど、最後まで意地を張り続けていじめてたやつを追い返したらしいよ」

 はあ、とゆかは感心のため息しか出てこなかった。

 自分が同じ立場なら学校に行くのも嫌になるだろう。そんなに強い子なら、やっぱり悩み事で家出するとは思えない。学外でなんらかトラブル巻き込まれたと考えるのが妥当だろう。

「じゃあ、最近では学校内では、特にトラブルとかはなかったのね?」

「いや、それがね……」

「なにかあったの?」

「関係あるかはわからないんだけど……花壇がめちゃくちゃに荒らされてたの」

「花壇って校舎裏の花壇? それと、瀬戸さんとなんの関係があるの?」

「いや、その花壇に植えた花って遙が植えたものなのよ」

「じゃあ、瀬戸さんに対するいやがらせのために?」

 早紀は首をかしげる。

「それがどうもよくわからないのよ。花壇に花を植えたのは遙だけじゃなくて、あたしも一緒に植えたし。それに、物理室の窓硝子も割れてたんだもの」

「物理室の窓硝子も割られた?」

 そういえば、そんな話を女子が噂をしていた気がする。

「遠鳴さん知らないの? 体育用具室の扉も壊されて先生たち大騒ぎしてたよ。さすがにこれだけ大事だから遙とは関係ないひとが犯人だと思うんだけど」

 確かに花壇が荒らされたことが、今回の事件となにか関係があるとは思えない。窓硝子が割れていたことからも瀬戸遙に対するいやがらせにしては効果が薄いうえに、上履きをゴミ箱に捨てるような幼稚ないじめにくらべて問題が大きすぎる。

「やっぱりなにかトラブルに巻き込まれたってことなのかなあ」

「河内。遙が誰か変なやつと付き合ってたとか知らないか」

 早紀は腕を組んで考え込んでいたものの、

「ごめん。あたしには思い当たらない」

 と首を振った。ゆかは大きく息を吐いた。

 しばらくの間、三人は考え込んでいたものの、

「悪いけど、そろそろあたし塾の時間だから帰るね」

「あっ。ごめんなさい。こんな時間までひきとめちゃって」

「ううん。あたしもはやく遙を見つかってほしいし。またいつでも声をかけてよ」

 と言って早紀は立ち上がったが、ふいに大きな声をあげた。

「あっ。華乃、ちょっと!」

 早紀が大きく手を振ると、ひとりの女子生徒が小首をかしげた。身長は小柄で、目が大きくてかわいらしい。けれど、おとなしそうなイメージを相手に与える女の子だった。

 早紀は華乃と呼んだ女子生徒をゆかたちの元へと連れてくると、

「この子、水瀬華乃。この子が中学校の頃に遙が助けた女の子」

「ええっ? 水瀬さんって確かこの間の学年トップだった?」

 水瀬華乃は学年トップの秀才として有名だ。成績が中の下のゆかにしてみれば遠い存在だ。けれど、華乃は偉ぶったふうもなく、恥ずかしそうに体を小さくしていた。

「この子、ずっと小学校の頃から遙と一緒だったらしいし、この子ならあたしの知らないことも知ってるかもしれない」

「早紀ちゃん、どういうこと?」

 華乃はわけがわからずにゆかと要を交互に見渡してる。

「ほら、こちらが遙の彼氏の鷹野要くん。華乃はあいさつしたことなかったっけ?」

 華乃が横に首を振ると、要は、どうも、と短くあいさつした。

「その隣が鷹野君と同じクラスの遠鳴ゆかさん。遙がいなくなったことでいろいろと調べてるらしいの。あなたもこのひとたちに協力してあげてよ」

「でも、わたしは警察に話したこと以外はなにも……」

「どんなささいなことでもいいの。警察だと話しにくいけど、わたしたちなら話せることってあるでしょ? だから、ちょっとだけ話に付き合ってくれないかな。お願い!」

 ゆかが両手をあわせて頼み込むと、華乃はしばらくあたりを見回していたが、

「そういうことなら」

 とおずおずとうなずいた。

「ありがとう」

 ゆかが華乃の両手を取って礼を言うと、華乃は恥ずかしそうにうつむいた。

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