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白磁人形の憂鬱2

 ゆかがその事件を知ったのは、瀬戸遙が失踪してから三日目のことだった。

「遙がいなくなったんだ」

 瀬戸遙の失踪を知らされたのは、クラスメイトの鷹野要からだった。

 鷹野要は中学校の頃から家が近所ということもあり、仲の良い友達だった。中学校を卒業した後も同じ高校に進学したこともあり、なんでも気軽に話し合える間柄だった。けれど、決して恋人という関係ではないし、要は最近別のクラスの瀬戸遙と付き合いはじめた。

 その瀬戸遙が突然失踪したというのだ。

 ゆかは要に近所の喫茶店『秋桜亭』に呼び出されて、はじめて要の恋人が失踪したことを知った。ゆかは瀬戸遙とは別のクラスということもあり、特に彼女が学校を休んでいる事実さえも知らなかった。

「瀬戸さんがいなくなったって、どういうこと?」

 要は顔をゆがめて首を振った。

「わからない。おととい突然学校を休んでメールが来なくなったと思ったら、うちに遙の親から電話がかかってきて、〝娘の居場所を知らないか〟って言うんだ。だけど、おれも遙がいなくなったことを知ったのは、そのときがはじめてだったから……」

「家出なの? それとも、まさか誘拐?」

「おれにも全然わからないんだ。遙の家に行ったらたくさんの刑事がいて、いろいろとおれも事情聴取とかいうのさせられて、そのときに刑事から聞いたんだけど、誘拐だとしても犯人からの連絡や身代金の要求みたいなのはないって」

「じゃあ、両親とけんかして、とっさに家を飛び出したとか?」

「いや、親との仲は悪くなかったし、おれたちの付き合いはあいつの親に認められてた。それに、親とけんかして家を出たのなら真っ先におれのところに連絡が来るだろ」

「そういうものなの?」

 恋愛経験をしたことがないから、ゆかにはよくわからないけれど、世間一般ではつらいときや苦しいときは恋人に真っ先に連絡するものらしい。

「でも、メールで〝無事だから心配しないで〟って毎日来るんだって」

「だったら、無事なんじゃないの?」

「でも、いまどき携帯電話を奪えば、誰でもメールを送れるじゃないか。犯行が偽装することはむずかしくないって話だろ。ゆかの親父さんは警察の偉い人だから、ゆかに相談すればなにかわかるんじゃないかと思ってさ」

「わたしも力になりたいけど……でもお父さんの捜査一課は殺人事件担当だし。だいたい、お父さんに警察の捜査状況なんて聞けるわけないよ」

「でも、もし万が一のことがあったらと思うと、おれ耐えきれなくて……」

 要はいまにも泣きそうな声で顔を覆う。

 こんなに落ち込んでいる要を見るのははじめてだった。

 見ているこっちまで胸が痛くなってくる。

「わかった。わたしにできることならなんでもするよ」

「悪いな、ゆか。迷惑かけて」

「なに言ってんの。わたしと要の仲じゃない」

 ゆかが笑顔を向けると、要は救われた顔をした。

「携帯電話のメールの発信場所はある程度は絞り込めるって聞いたことがある。メールの発信場所がだいたいどこら辺なのか要は聞いてない?」

「警察の話だとメールは学校の付近と彼女の家の近所から送信されてるって。それに、行方不明になった最初の日に遙から親に〝友達と一緒にいるから心配しないで〟っていう電話があったらしいんだ」

「じゃあ、無事でいる可能性は高いんだよね。だったら、元気出さなくちゃ」

 ゆかがガッツポーズをすると、要は笑顔を向けた。

「でも、瀬戸さんが〝友達と一緒にいる〟っていうのが気になるな。誰かの知り合いの家にいるってことなのかな?」

「わからないけど、おれに一言もないなんておかしいと思わないか? どうして両親のところにはメールが行くのに、おれのところには一言もメールがないんだ? おれには誰かに無理やり言わされたとしか考えられないんだ」

 確かに両親の元にだけメールが行くのはおかしな話だ。身代金目当ての誘拐でなくても、ストーカーに狙われて家に連れ込まれたり、おかしな相手に絡まれて連れ回されたりする事件は最近よく耳にする。

 だったら、最初の電話の〝友達と一緒にいる〟というのは、なにを意味するんだろう。

「ただひとつ気になることがあるんだ」

 ゆかが腕を組んで考えていると、要がおもむろに切り出した。

「気になることってなに?」

「遙がいなくなったのは実は早朝なんだよ。朝七時前に学校に出かけてそれきりなんだ」

「なんで瀬戸さんはそんな朝早くに学校に出かけたの? 部活の朝練?」

「いや、その日は朝練はなかった」

「じゃあ、なんのためにそんな朝早くに出かけたんだろう? 誰かと約束をしていたとか?」

「……わからない」

 ゆかは要と一緒に大きく息を吐いた。

 朝早くに誘拐されるというのもおかしな話だ。誘拐事件は学校の下校時間か深夜の人通りの少ない時間を狙うケースが多い。いまどきの犯罪は常識が当てはまらないとはいえ、朝七時頃に誘拐される事件もめずらしい。

 だいたい、なんで瀬戸遙はそんな時間に学校に出かけたんだろう。

「もし誰かと待ち合わせをしてたんだったら、その人物が事件に関係してるかもしれないね」

「誰かに呼び出されて誘拐されたってことか?」

「うん。中学生の頃に付き合ってた相手と別れ話がこじれたとか、いじめ相手に呼び出されていたとか。瀬戸さんが誰かとトラブルを起こしていたとかない?」

「いや、おれは全然気づかなかった。元々遙は悩みとかあまり見せるほうじゃなかったから……おれは頼りないと思われてたのかもしれないけど」

「違うよ! きっと瀬戸さんは要に心配をかけたくなかったんだよ」

 ゆかがむきになって否定すると、店内の視線がいっせいに集まった。急に怒鳴ったことが恥ずかしくなって、ゆかが椅子に座ると、要はくすくすと笑った。

「やっぱりおまえのそういうところは好きだな」

「またのうてんきだとか言うつもり?」

「いや、おまえが誰に対しても一生懸命にがんばるところだよ」

 見つめられると、顔が急速に火照っていく。

「と、とにかく瀬戸さんの親しい友達ならなにか知ってるんじゃない?」

「何人か知ってるけど、でもすでに警察が事情聴取したんじゃないか」

「警察みたいなひとにいろいろ聞かれると、緊張して答えられないことってあるじゃない? だから、わたしたちならなにか事件のヒントになることを教えてくれるかもしれない。最初からあきらめないでやるだけやってみようよ」

「わかった。明日からやってみよう」

「うん。その意気だよ」

 ゆかの笑顔に、要は力強くうなずいた。

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