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人形の家の惨劇7

 柱時計の鐘の音があたりに響きわたっている。

「――ん」

 鐘の音に揺り動かされて、ゆかは目を覚ました。

「あれ? わたしなんでこんなところで寝てるの?」

 頭がもうろうとして重たい。見上げた天井は霞んでいてよく見えない。

 やがて意識がはっきりとしていき、自分が廊下で眠っていることに気づいた。

「なんでこんなところで寝てるんだろう、わたし」

 柱時計を見上げれば、午前一時を指している。

 どうしてこんなところで眠っていたんだろう。確か夜十時を過ぎたところで、急に眠気に襲われて夏子の部屋で一緒に寝たところまでは憶えている。

 その後、どうして自分が玄関前の廊下で眠っているのかがわからない。

 寝ぼけてトイレに行ってから自宅とまちがえて廊下で眠ったのか、それとも寝ぼけて涼しい玄関で寝ようとしたのか。

「あれ? この光景、どこかで……」

 以前にも似た光景を見た記憶がある。廊下で目を覚まして、それからリビングで物音がしたような気がする。そう考えていると、今度はリビングのほうでがさがさと物音がした。

「なっ」

 全身が粟立つような感覚がした。

 部屋の奥のリビングで待ち受けているものは確か……。

 膝ががくがくとふるえる。あれは悪夢の中の出来事だとわかっている。現実の出来事なんかであるはずがない。そんなことわかっているのに、なぜか全身が震えてとまらない。

 ここが現実であることを確かめたくて、ゆかは震える自分をなだめながら奥へ向かう。

「……夏子お姉ちゃん? 夏子お姉ちゃんなんでしょ?」

 おそるおそる声をかけてみるが返事がない。

 リビングの扉に手をかけてゆっくりと開けていく。中からばさばさと鳥が羽ばたくような物音が聞こえ、ひっとゆかは短い悲鳴をあげる。

 振り返れば、リビングの出窓が開けっ放しになっていた。

「なんだ、風の音か」

 ほっとして振り返った瞬間、目の前に信じられないものが飛び込んできた。

 Present for Maya。

 黒々とした塗料で壁に大きく文字が描かれていた。その前には誰かが倒れ込んでいた。その人物はカーペットに突っ伏したまま動かない。

 その見慣れた姿を目の当たりにした瞬間、全身の血が引いていくのが自分でもわかる。

「夏子お姉ちゃん!」

 ゆかは悲鳴をあげて夏子に駆け寄って体を揺さぶるが、すこしも動かない。腕や足がだらりと垂れ下がっている。まるで糸の切れたマリオネットのように。

 夏子のまわりから血があふれて、血と暗闇で黒く染まった百合の花びらが広がっている。

「夏子お姉ちゃん夏子お姉ちゃん!」

 何度も何度も呼びかけるが、夏子からの返事がない。

 取りあえず助けを呼ばなくちゃ。はやく誰かに助けを呼ばなくちゃ。

 ゆかは動かない夏子を放り出して自分の携帯電話に向かった。

 夏子の部屋に置いてあった携帯電話を拾いあげて番号を押す。リダイヤルボタンを押すことも忘れて、ただめちゃくちゃにプッシュボタンを押した。

 どこかに電話がつながったらしく、相手は三コールで出た。

『もしもし。ゆか。こんな時間にどうしたの?』

 その聞き慣れた声を聞いた瞬間、涙があふれそうになった。

「マヤちゃん。夏子お姉ちゃんが……、夏子お姉ちゃんが動かないの……」

『夏子お姉ちゃんってあなたの知り合いの?』

「それでね、壁に文字が書いてあって、お姉ちゃんの体から血がたくさん出てて……」

 もう言葉が支離滅裂だった。なにをどう話せばいいのかもわからない。夏子が動かないということと壁に文字があるということだけをひたすら何度も何度も相手に話した。

「お願い。マヤちゃん。助けて」

『わかった。いますぐそっちに向かうわ。ゆか。警察と救急車には連絡できる?』

 マヤが何事か言っていたが、ゆかは言葉を発することができなかった。

 目の前の化粧台を見つめたまま体が凍りついていた。

『ゆか。どうしたの? 答えなさい、ゆか!』

 鏡に映る自分の目が青白く光っていた。

 このとき、ゆかは喉が裂けんばかりの絶叫をあげた。

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