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人形の家の惨劇1

 ふと目を覚ましたら、ゆかは廊下で眠っていた。

「あれ? なんでこんなところで眠ってるんだろ」

 あたりを見回しても家の中は真っ暗でなにも見ることができない。壁の時計が午前一時の鐘を鳴らしているところだった。

 どうしてこんなところで眠っているのか思い出せない。もう今年十一歳になるのに、手洗い場から部屋に戻るときに、眠気に負けて廊下で眠ったんだろうか。

(……なんか幼稚園生みたいで恥ずかしいよ)

 ゆかは急いで部屋に戻ろうとしたが、一階のほうからがさごそと物音が聞こえる。

 警部に昇進したばかりの父は、最近殺人事件の捜査で連日捜査本部に泊まり込んでいる。いまは母も寝室で眠っているはずだ。母は夜更かしをするようなひとじゃないから母がなにかをしているとは考えられない。

(きっとお父さんだ!)

 ゆかはひらめいた。父が帰ってきたに違いない。

 母やゆかを起こさないように電気を消しているんだ。父はめったに帰ってこないから、いつも顔を見られない。またこのままほっといたら、着替えを持って仕事場に戻ってしまう。

(むずかしい事件だって言ってたけど、もうすこしゆかのこと考えてもいいと思う)

 こうなったら、いきなり声をかけて驚かせてやろう。

 ゆかは階段を慎重に下りていった。一階に下りると、奥のリビングからがさごそと人影が動き回っていたが、そのリビングの電気も消されている。

 いくら娘や妻を起こさないようにしてるといっても、そんなに気をつかわなくても。

 友達はゆかの父が刑事だと知ると、怖い父親というイメージがあるらしいが、ほんとうの父はやさしくて怒ることなんてない。むしろ、母のほうが怖いくらいだ。

 いきなり声をかけたら、どんな顔をするだろう。

 びっくりした父の顔を想像してゆかはひとり声を押し殺して笑った。足音を立てないように気をつけながらリビングへと向かう。

「お父さん、お帰りなさい!」

 いきおいよくリビングの扉を開けた。

「あれ?」

 期待に反してリビングには誰もいなかった。庭からリビングに通じる出窓が開いて、カーテンが風になびいているだけだ。あたりを見回しても誰かがいる気配はない。

「お父さん? お父さんじゃないの?」

 ゆかは部屋のスイッチを付けようと手探りで壁を探った。まだ警察の社宅から一軒家に引っ越してきたばかりで、部屋のスイッチがどこにあるのかよくわからない。

「わっ」

 ゆかはなにかに足を引っかけて転んだ。

 体を起こしたとき、足を引っかけたのが人間の足であることに気づいた。その人物はリビングに突っ伏すようにして倒れ込んでいた。

「……お母さん?」

 うっすらと見えるパジャマの柄から母であることがわかった。けれど、母がこんなところで眠っているなんてことはあり得ないし、よくよく見れば母の体がおかしい。

 まるで糸が切れたマリオネットのような形をしている。関節があり得ない方向にねじ曲がり、目も死んだ魚のように虚ろな目をしている。

「……なにこれ」

 目の前の物体が母親だとは信じられなかった。誰かがいたずらでマリオネットを他人の家に放り込んでいるようにしか見えなかった。

 ふとゆかは自分の手がなにかおかしいことに気づいた。両手がどろりとした感触に濡れている。その瞬間、月明かりが射し込み、うっすらと照らされた手は赤黒く汚れていた。

 血だ。血が両手についている。

「お母さん!」

 ようやく現実が飲み込め、ゆかは急いで母の元に駆け寄ろうとした。

 けれど、母の側に小さな人影があった。その小さな人影はじとっとこちらを見上げていた。そして、月明かりに照らされたその瞳は、ぼうっと青白く輝いていた。

 このとき、はじめてゆかは悲鳴をあげた。

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