2-2 明け方のバルコニーで
明け方。クレオは石造りのバルコニーに立って、白み始めた東の空を眺めていた。しばらくすると、山の端から日が昇ってくるだろう ―― この山々を越えたところに、彼らが悪事をはたらく街 ―― 彼らにとっては恨めしい、植民どもの市街 ―― がある。
「朝日は遅れてこの地を照らす」
目を覚ましたジャン=ポールが、裾の長い寝間着のまま彼女のとなりに立った。「夕日のほうが格別さ」
彼はそう言って、手にした歯ブラシを口の中へ入れた ―― ギャングのボスともあろう大男が、朝のバルコニーで歯ブラシをくわえて優雅に動かす ―― くしゅくしゅというブラシの音が、静かな朝の気配に溶け、木々に隠れた小鳥のさえずりがそれを彩る ―― その音と幽かな光景はクレオを驚かせ、すこしのあいだ思考を停止させるほどには衝撃的なものだった ――。
歯磨きを終えて口をゆすぐと、ギャングのボスは語りだした。
「たらふく飲んで、たらふく食う……、そいつが俺の夢だった。飲んで食って、気を病むことなく太陽の下で肌を焼いて、でもって女を両腕に抱えてよ ―― 俺はこいつを求めていて、今ようやく、その夢が叶ったというのに……」
朝日が輪郭を現した。彼は目を細くして、恨めしげにその光を見つめている。
「俺は従弟と敵対し、やつを捕らえて獄へつないだ。そればかりか、刑事の言いなりになってやつの身柄を引き渡した。―― やつは俺を殺すつもりだった ―― 俺は刑事からそれを聞いて、先手を打って襲撃し、捕虜にしたんだ。―― はじめから殺すつもりはなかった、自分が死ぬのが嫌なだけだった。だから俺は、やつの身柄を確保したうえで説得し、うまく折り合いをつけようと思っていた。けど……、刑事がそれを許さなかった……」
ジャン=ポールは皮肉な笑みを浮かべた。
「どうせ、騙し討ちにされるのがオチだったさ。けど、そうはならず ―― 俺は刑事に言われたとおり、やつを差しだした。それでも密かに仲間を送り、やつのために浜辺に住まわせたが、刑事に見破られ、撃ち殺された。……やつ ―― 俺の従弟 ――は、どうなったか知らねえ。ただひとつ言えるのは……、残った俺がやつの築いた砦に移り、こうして夢を叶えてのうのうと暮らしてるってことだ……」
クレオは黙って耳を傾けていたが、相手の語りが途絶えたと見るや、すかさず訊ねた。
「その従弟の名は」
「刑事から聞いてねえか。従弟の名は、ギヨームだ」