2-1 歓待
ブロンシ島の片隅にある地域ソングロン ―― そこは囚人の言ったとおり窮屈な土地で、クレオの駆けまわった大陸の旧市街よりもはるかに狭い路地の入り組んだ迷路のような町だった。むろん、中世の街並みに比べれば壁も低く造りも雑ではあるが、石を敷き詰め、積みあげて造られたその町は、一種の異様ないかめしさを醸しだしていた。
その狭い中に、以前はいくつかの集団が縄張りを張って争っていたが、今やこの地随一の有力者ジャン=ポールを脅かすものはなく、実質的にこの町はすべて彼の支配下も同然だった。彼は以前の有力者ギヨームの住居 ―― 町の端から端までを見渡せる高台に築かれた堅固な砦 ―― を根城とし、町中に睨みを利かせていた。
この町へ護送されたクレオは、さっそくジャン=ポールとの対面を果たした。表向きは彼の側女として ―― じっさいには、刺客として ――。
ジャン=ポールはこころよくクレオを迎え入れた。彼は大男ではあったが、丸く太った顔と胴体はむしろ彼の気さくさや人のよさを表しているようでもあり、刑事の言葉を聞いていたクレオは彼を前にしてすこし戸惑った。
彼は砦の広場へ仲間を集め、みずから彼女に紹介した。
「こいつがクロードで、こいつがトマ。トマはトランプがうまくて、俺でも敵わん。でもって、こいつが ――」
集められた彼の重鎮は十人に満たなかったが、みな主とともに、この砦のうちに暮らしているという。
「―― でもって、これがアントワーヌ。こいつは俺の右腕みてえなもんだ。最後に……」
八人目を紹介しようとして、ジャン=ポールは眉をひそめた。「あのガキ、どこ行きやがった」
くっくっ……。―― 柱の陰から笑い声がした。
「あやつっ……」
居合わせたみなが声のほうへ振り向くと、小柄な青年が姿を現し、全速力をもって短い距離を駆け、主の目前へと迫った。主が驚いて身を引くと、少年はまた例の声を出して笑った。
「危ねえじゃねえか、ジュリアン」
「反応が鈍いですよ、お頭さん」
「なんども言わせんな。『お頭』でも『ボス』でも構わんが、その手の呼称に『さん』をつけるな」
「それより、早く僕のこと紹介してくださいよ。この町随一の人気者だってね」
「自分で言うか、それ。っつうか別に人気でもねえし」
「あなたに言われたかないですよ。最近はあからさまな敵が見当たらないってんで、油断して十キロも太っちゃって。きっと警告かなにかだったんでしょうね、こないだ鳩にフンをぶつけられたのは」
「てめえこのガキ……、見てたのか」
「見たくもなかったけど」
そう言って、青年はまた笑った。
砦の主は、この他に妻と四人の側女、それに家政婦をクレオに紹介したが、やはりもっとも強烈な印象を彼女に与えたのは、重鎮八人のうち最後に紹介された青年、ジュリアンだった。