1-5 刑事シャルル
フラスコ内部の熱が冷め、圧力が下がると、煉瓦色をした液体がパイプをくだる。液体はしだいに黒みを増して透明度を下げていき、やがてぽこぽこと泡を吹きだす。
「あんたのいう通りだったよ、シャルル」
コーヒーを淹れながら、アルフレッドは言った。ソファに腰掛けた白いスーツの刑事シャルルは、自慢げに顎をさすった。
「こっちも、お前のいう通りだったよ」
「え?」
「最新のシェーバーは剃り心地が抜群だ」
そう言って彼は、つるつるとした顎を見せた。
彼らがいるのは高台にあるビルの三階で、窓からはちょうど留置場の敷地全体が見渡せた。
「かねてから、あの女の噂は聞いていた。よく聞けば、共和制以前、王家に仕えて栄華を誇った武闘一家の血筋を引くというじゃないか。まあ俺も、じっさいに街で実物を見るまでは大したことないと思っていたのだが」
「しかしなんだ、ガキどもの喧嘩を見ただけであれの天性を見抜くとは、さすがだな。あんたの言うことを疑ってたわけじゃないが、俺はあの小娘が衛兵のサーベルを持って現れたときには思わずゾッとしたよ」
「俺の目に、狂いはない」
シャルルは白い顔に不敵な笑みを浮かべた。
「しかし、もっと驚いたのはあんたの心理学だよ」
アルフレッドはつづける。「徹底的なプロファイリングをもとに、あいつの同情心と燃えあがる義侠心を導きだし、すんなりとブロンシ行きを決心させた。俺は頭が固いから、たったの三月で囚人の言葉に感化されて、心に仲間意識を芽生えさせる人間がいるとは到底思えなかった。これはあんたの手柄だ」
「じっさいに任務を持ちかけて説得したのはお前の手柄だ」
「いや、すべてあんたの計算と策略あってこそだ。衛兵を失ったのはもったいなくもあるが、これであいつの潜在能力も実証されたわけだしな」
「あまり俺を褒めるな、巷で知られた敏腕刑事が」
「あんたには敵わないさ」
ふたりの刑事はコーヒーをすすった。黒く苦い液体は、勝利の味を舌へ残して、彼らの胃袋に染みこんだ。