4-5 銃弾
クレオはジュリアンの縄を解くと、彼の手を取って短銃とナイフとを渡した。
「あんたの分も持ってきた」
「あ……」
「ぼうっとしている暇はない、早く出るぞ」
クレオはそう言ってジュリアンの腕を引っぱったが、彼は立ち止まり、後ろをふり返った。―― クレオは迷わず彼の頬を殴りつけ、血に染まった屍体の頭をつかみ、目の前へ突きつけた。
「クレオと死人、どっちを選ぶ ――」
クレオは彼をふたたび立ちあがらせると、その手を引いて駆けだした。
***
地下牢を出ると、早速衛兵に出くわした。クレオはすぐに彼を撃ったが、銃声を聞いた別の兵士が笛を吹き、砦をまわって仲間に知らせた。
「門を下ろせっ」
上官らしい男の声が聞こえ、出口の門が閉ざされる。
「クレオ姉さん」
ジュリアンは失っていた気概を取り戻していた。「南側から逃げるのがいちばんいい。ついてきて」
この砦の南側に重要な施設のないことを彼は知っていた。とすればそこがもっとも警備の手薄な箇所であろうと踏んだのだ ―― 果たしてそれは間違いではなかった。南端には倉がひとつあったが、そこを守っていたのはただひとり ―― ギヨームのもとへ身を寄せた、強運のクロード ―― だった。
「いたぞ、逃すなっ」
南へとつづく石橋の途中、ふたりは追っ手と闘った。敵の武器は棍棒やジャックナイフが主だった。
クレオははじめナイフを手に応戦したが、倒した敵から棍棒を奪うとそれを大きく振りまわした。風を切る音が響き、敵を萎縮させる。
「ハッ ――」
掛け声とともに前へ突きだすと、腹を突かれた敵は血を噴いて倒れ、恐怖に後ずさったひとりの男が橋の下へと転落した。
ジュリアンは終始ナイフで応戦したが、大きな敵の懐へ果敢に攻め入り多くの相手を蹴散らした。恐れをなした敵は後退を始めた。
「どけ」
太い声が響き、敵兵が脇へ退いた。その向こうにギヨームが立っていた。――
「お前がクレオか」
彼はゆったりとした足取りで近づいてくる ―― 左手には棍棒を持っていた ――。
「左……、姉さんっ」
突然、ジュリアンが彼女の腕を引き、前へ躍りでた。
「うっ……」
銃声が響き、ジュリアンは左肩を押さえた ―― その向こうで、銃を構えたギヨームがうすら笑いを浮かべる。
「かばうとは……」
ギヨームはクレオに視線を移すと、目を見開いて倒れた状態の彼女へ向かい、ふたたび銃を構えた。
「待て、ギヨーム」
ジュリアンは言った。「この人はクレオじゃない……」
「なに……」
「この人はクレオじゃない、この人はクレオじゃない、こんなところで戸惑って、命を落とすようなクレオ姉さんじゃないっ……」
「ほざくかっ ――」
ジュリアンは立ちあがった。その脇腹を銃弾が射抜く。
直後 ――
「……う……」
―― クレオの放った銃弾が、ギヨームの心臓を撃ち抜いた。




