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4-4 捕縛


 ジュリアンは単身、敵の根城へ乗りこんだ ―― ギヨームと話し合い、彼の地位を認めつつ、うまく折り合いをつけることを目的として ――。


 ギヨームは彼を砦へ迎え入れた。

 その場にはアンリエットも同席していたが、ギヨームはジュリアンの話を受けいれることはなかった。

「お前は昔から変わらんな」

 ギヨームはそう言って苦笑し、仲間に彼を捕らえるよう命じた。

 抵抗する四肢を四人の強者つわものが押さえつけ、縄でしばり、ジュリアンは砦の地下牢へ放りこまれた ―― ギヨームの娘は、連行されるかつての恋人をただ見守っているだけだった ――。



 ***




「―― 冷たい風が 若さをさら

 夕日の手下が 蛙手(カエルデ)を侵す

 わずかに染まった あけが怖い

 真っ赤になれば もううつくしさ……」



 後ろ手に縛られたまま、ジュリアンは土のうえにうずくまっていた ―― そこへ、かつての恋人が降りてくる ――。


「アンリエット……」

「心配ないわ。……私がここへ来ることは、父には伝えていないから」

「わかっているよ、アンリエット」


 彼女は鉄扉てっぴの錠を外し、ジュリアンのもとへと近寄った。

「久しぶり……」

 つぶやくように言いながら、青年の頬をなでる。「十年ぶりね」


 十年前のあの日を最後に、ジュリアンは彼女の家を訪ねることはなかった ―― それは負い目からでもあり、また、過去への決別のためでもあった。そして彼の相手、アンリエットのほうが、それを望んでいるようにも思えたのだ ――。


「あなたとカエデの池で会ってすぐに、父からの使者があそこへ来たの。私の決心はそれで……、でも、この十年のあいだ、それはなんども揺らぎそうにもなった ―― 一度さえあなたに会ってしまえば、私はすぐにでも、この思いを変えてしまったかもしれない……。―― でも、とうとうあなたと私は、こうして敵味方に分かれてまみえることになったのね」

「アンリエット……」

 ジュリアンは膝をついて懇願した。「アンリエット、頼む。縄を解いてここから出してくれ。僕にはやらなくちゃならないことがあるんだ」

「……やらなくちゃならない」

「そうだ。僕は……、なんとしてでも争いを止めなくちゃ。たとえ君のお父さんに全権を明け渡してでも……、だから、アンリエット、頼む」


 アンリエットはしばらくのあいだ、彼女の足許あしもとに小さくなったかつての恋人を見つめていたが ―― やがて口を固く結ぶと、彼の頭をつかんで頬を打った。したたか打たれたジュリアンは、思いがけず土壁へと叩きつけられた。


「アンリエット、君はなにを……」

「見くびらないでちょうだい、私はこれでもギヨームの娘よ。―― あなたにはわからないかもしれないけれど……、私はあなたに見捨てられて、獄中であの詩を作ったそのときから……、私の心には、かすかな決心が生まれていたのよ。……でも結局どっちつかずで、私はそれこそカエデのように、真っ赤に染まることを恐れてもいた。だけど、あなたの前のあるじが死んで私が牢から出されたとき ―― あなたのそばへ私が置かれないとわかったとき ――、私は得心がいったの。ねえジュリアン、あのときにもう、青葉だった私たちの青春は終わったのよ。あなたはとっくにそれをわかっていたと、私のほうが遅かったのだとあのときは思ったけれど ――」

 絶望にあふれた若い男の瞳を見て、あわれむように彼女は言った。「―― 私はアンリエットよ、ジュリエットじゃないの」



 アンリエットは腰から短銃を抜いた。


 ジュリアンは、声にならない声を漏らす。




 ―― さようなら、私の想い出。――




 アンリエットは、静かに引き金へと手を伸ばした。――














挿絵(By みてみん)















挿絵(By みてみん)



























 ―― ジュリアンが目を開けると、アンリエットが倒れていた。


「え……」


「ジュリアン」

 クレオが言った。「迎えにきた」――








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