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1-1 不良少女クレオ


 クレオは不良だった。男子顔負けの任侠と沈着な姿勢、そしてなにより身に染みついた体術の腕によって、仲間からは一目いちもく置かれていた。彼女はこの技をもって、強きをくじき弱きを助け、時には制裁をも実行し、陰湿な路地裏にそれなりの秩序を保つのに貢献していた。

 クレオが体術に秀でていたのは家系によるもので、徒手のみならず棍棒や長刀なぎなたを用いた技にも明るかったが、その家自体はすでに没落していて、彼女に金銭的に恵まれた娘時代を送ることを許しはしなかった。クレオはしだいに落ちぶれた不良少年らとつるむようになり、喧嘩もし盗みもはたらいたが、持ち前の気性は失われることなくこのときにいたった。



 クレオは十七歳になった。この年頃になると街のたいていの鉄火てっか娘は大人しくなり、また力ではとうてい男に敵わなくもなるが、クレオは違った。彼女は幼いころからの技を発展させ、持って生まれた頭脳によって戦闘の効率を感覚的に理解し、腕力によらず敵を倒すテクニックを身につけていた。―― 彼女は引くに引けなかった。もとよりまともな仕事もなかったうえに、落ちぶれた仲間をおいてこの集団をさることができずにいたのだ。



 ***


 初夏、クレオが十八歳になる誕生日の夜。彼女を慕う不良仲間が裏通りの酒場へ集まり、誕生祝いと称して安酒を飲んでいた。もちろん彼女自身もその場にいたが、やがてなにかのきっかけで、血の気の多い若輩連中が喧嘩を始めた。

 いさかいの中心となっていた少年は、近ごろ街へ流れてきた者だった。クレオはこの少年をかわいがっていたが、古参の寵臣ともいうべき地元の少年のなかにはよそ者を快く思わない者もあり、時にこの少年とあらそいを起こし、クレオの鉄槌てっついを身に受けることもあった。

 クレオは、みずからの威厳と言葉とをもって場を収めようとした。そしてそれは、これまでのようにうまくいくはずだった。少年たちは拳をおろし、しょげた顔をもって反省の色を見せた。

 ところがこのとき、渦中の新参が思いもよらぬことを口走った。


「偽善者が……」


 その言葉はクレオへと向いていた。酒に煽られたこの少年は、あろうことか、心から慕っていたはずの彼女へと不満をぶつけてしまったのだ。


「野郎っ」

 ひとりの少年が新参の胸ぐらにつかみかかったが、その途端、「うっ」と短い呻き声をあげて膝を崩した。彼の腹からは血が流れていた。

 クレオは素早く少年の手からナイフを取り上げ、刺された古参の介抱を仲間に言いつけると、流血沙汰を起こした寵臣の手を引いて外へと駆けだした。



 ***


 彼となにを話したか、クレオははっきりと覚えてはいない。また、記憶のどこかに残っているのだとしても、彼女はそれを思いだしたくはなかった。

 ただひとつはっきりしている事実は ――、愛すべきその少年が、彼女自身の早まった手によって、若い命を散らされたということだった。



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