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4-3 危機


 海辺の砦にったギヨームはさらにひとつの砦を奪い、恐れをなした町の者たちは続々と彼の軍門に降った。

 クレオとジュリアンはとうぜん危機感を抱き、重鎮たちを集めた。


「クロードは?」

「あやつは、その……」

「どうした、門番」

「わしが転寝うたたねをしとったすきに……」

 それを聞いたジュリアンは彼の胸ぐらをつかんだが、力なく言った。

「……運のいいやつだ」


 砦からの逃亡者はクロードひとりにとどまったが、今では町の半数近くの住民が、すでにギヨームに従っているか、日和見ひよりみをしているといった有様ありさまだった。

「若いもんの限界か……」

 重鎮のひとりがつぶやいた。「俺は前々から、若造が権限を持ちすぎていると思っていたんだ」

 この一言を皮切りに、重鎮たちはジュリアンへの不満を漏らしはじめた。

 若い者といえばクレオもそうだが、彼らはそれを言うのをためらった。もともとよそ者とはいえ、彼女には人望があった。彼らにとってクレオは一種の誇りであり、この町のシンボルでもあった ―― 皮肉にも、そういったクレオ像を人々のあいだに作りあげるのに最大限の貢献をしたジュリアン青年が、彼らのそしりを一身に受けることになった ――。

 むろん、クレオは彼らを制止しようとしたが、ジュリアン本人がそれをさえぎった。

 彼は、みずから重鎮たちの前へ膝をついて言った。

「もう一度だけ、チャンスが欲しい。……僕はあいつの娘と恋仲だったし、ギヨーム本人ともそれなりに話し合ったことはある。……僕が話をつける。僕ひとりで行かせてくれ」


 その後、ふたりきりになってからクレオが言った。

「どうして抱えこむ」

「そんなんじゃないよ」

 ジュリアンは答えた。「これがいちばんいいと思うからだ。僕がひとりで敵地へ乗りこむ ―― 大勢で押しかけるより、このほうが絶対話になるって。それに、ギヨームは僕がこの砦を指揮しているのを知っている。その僕が行くんだ、無下にはできないだろう」

「危険だ、行くな」

 クレオは短く言った ―― その頰はくれないに染まり、瞳は潤んでいるようでもあったが、彼女はあくまで冷静を装い感傷的な言葉を漏らさないように気を配った。


「……アンリエットとも話がしたい……」


 クレオはわずかに瞳の色を変えたが、彼に見られてはいなかった。むろん、彼の言った「話」というのが政治的な意味を持つことは承知していた。


「危険だ、行くな」

 クレオはもう一度くり返した。


 彼はこれ以上なにも言わず、また、どんな忠告も聞こうとはしなかった。




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