3-1 策士策におぼれる
ジャン=ポールのもと重鎮たちを砦の牢へ入れる代わりに、ジュリアンはひとりの囚人を解放した ―― その囚人というのはギヨームの娘で、ジャン=ポールによって父親とともに捕らえられ、その後側女のひとりとして迎えられたが、敵であるジャン=ポールの命を狙っているとの讒言が他の女からあったために牢へつながれることになったのだった。―― 彼女の名をアンリエットといった。
解放されたアンリエットは、町のはずれの小屋のような家へ移り住んだ。この家を手配したのはジュリアンだった。長いこと空き家になっていた建物だったが、そばにはカエデの木々に囲まれた小さな池があった。
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新たな頭領となったクレオは、やはりジュリアンをはじめとするもと島民の有力者に頼ることも多かったが、彼女の持ち前の剛毅さはすぐにも人々の好意を惹きつけ、彼女がかつて不良少年たちのまとめ役だったころの性質を発揮するのに適した土台を作りあげていた。
しかし、この土台に関しても、かの賢しい青年が一枚噛んでいた。というのも、彼はジャン=ポールの重鎮四人を牢へつないだ後、新たな仲間として砦へ招く者 ―― すなわち、常にこの砦にあって主の脇を固める者たち ―― の人選を慎重におこない、主の性質に合うと思われる者たちで固めたのだった。
ある夜、クレオが仲間たちの喧嘩の仲介をしたことがあった。この手の仕事は例の酒場の一件以来はじめてのことだったが、クレオは冷静に、堂々とした態度でその場を収めた。
ところがその後、クレオはジュリアンを呼びだして、いくらか心を乱したようすで言った。
「あれはあんたの仕組んだことか」
このころにもなると、クレオは多少なりともジュリアンの思考が読めるようになっていた。
「私に手柄を立てさせようとして、それであいつらをけしかけたのか。もしくは……、あのふたりもグルだったのか」
手のうちを言い当てられた策士はバツが悪そうな顔を見せたが、彼の少々間の抜けた表情を見たクレオは、それ以上責めることができなかった。
彼女は申し訳なさそうにその場を立ち去り、ひとりで泣いた。愛しい青年に気を遣わせている自分が情けなく、悔しかった。
この夜以来、ふたりのあいだには多少のぎこちなさが残った。




