2-3 花道
「その顔を見ると、ギヨームのことは聞いているみてえだな」
ジャン=ポールはにやりと笑った。そして、あらためてクレオの瞳をまじまじと見つめた。
「クレオといったな。クレオパトラ……、言われてみれば、女王のような眼をしている……。あんたは俺の側女として送られた……、わけではないな」
クレオはかすかにその顔を強張らせた。
ジャン=ポールはふたたびにやりとした笑みを見せたが、それはどこか、安堵の感情をもふくんだ笑みのように思われるものだった。
「幾夜も共寝する側女と思えば、こんな身の上話なんぞできるはずもねえ。頼りにならねえ男の勘だが、当たっていたようでほっとしたぜ」
「それは、つまり……」
ジャン=ポールは答えない。大きく息を吸いこんで、叫ぶようにして言った。
「夕日は海へと沈む。見渡すかぎり海水を真っ赤に染めて、まるで波の音が、この世のすべてを焼きつくし破壊しつくす太陽の怒りみてえに聴こえんだ。ちょうど反対側のバルコニーだ。クレオ、この町いちばんの絶景を、お前にも見せてやりたかったっ……」
言うなり彼は、寝間着のうちに右手を入れて、隠し持っていたナイフを取りだした。
クレオは素早かった。すぐさま距離を詰めると、男の手から凶器を叩き落とした。
襲いかかる大男の左手をかわすと、彼は体勢を崩し倒れこむ。そこへすかさず踏みつけを食らわせた。男が立ちあがるのを待ってから彼の喉へとつかみかかり、そのままバルコニーの欄干へと押し倒す。打ちつけられた後頭部は欄干を越え、胴体と下半身が持ちあがれば直下の石畳へ真っ逆さまに落ちていく ―― まさにそんな状態だった。
「そこまでだっ」
クレオが声に振り向くと、五メートル先に黒い銃口があった。主の危機を感知した部下のアントワーヌが、クレオに向けて銃を構えているのだった。
「浅はかな女め」
アントワーヌはうすら笑いを浮かべ、引き金を引いた。
クレオが目を開けると、銃はバルコニーへと転がっていた。アントワーヌは手首を押さえ、呻いていた。
くっくっく……。―― 怪しい笑い声に振り向くと、クレオの真横、バルコニーのうえへせり出した木の幹へ腰かけた青年が、金属製のヨーヨーを操りながら笑っていた。
「よっ」
彼は木の幹を離れ、バルコニーへと着地する。
「ジュリアン、なぜ邪魔をするっ」
アントワーヌが呻く。
青年は笑いながら言った。
「邪魔をしたのはあんたのほうだよ、せっかくの彼の花道をさ」
「なに……」
青年は欄干に倒された主の前へ進みでると、彼の足を掬って欄干の向こう側へと突き落とした。
「貴様、なにをするっ」
ジュリアンは振り向くと、アントワーヌの顔面へヨーヨーを飛ばした。彼は後頭部を地面へ打ちつけ、そのまま動かなくなった。
「死んじゃった……」
ジュリアンはそうつぶやいてから、クレオのほうへ顔を向けて言った。
「よろしくね、クレオ姉さん」




