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紅の燠、夕日もろとも  作者: 檸檬 絵郎
プレリュード
1/22

― 物語の外、名もない被害者たちのエピソード ―



 檸檬 絵郎 作




挿絵(By みてみん)





挿絵(By みてみん)











挿絵(By みてみん)













 架空の国と架空の島にて。――













 ***


 ホテルから出たふたりの若い男は、等間隔のネオンに浮かびあがる海辺の道をドライブしていた。バイオレットの夜空には星が浮かび、防風林のイトスギが黒くきわだっていた。


「これがゴッホか」

 後部座席の男が言った。空いた窓から吹き込む夜風が、彼の長い髪をもてあそぶ。「この島は二度目だが、こんな景色を見たのは初めてだ」


 若者たちを乗せたRV車は、黒い林の中へと入っていく。


「まだまだメジャーな観光地とは言えないがな。ガキのころ、親父と最初に来たときにはまだ治安が悪くて ―― なんでも、もとの島民が政府と対立していたらしい。島国みたいなもんだから、そういう根性があったんだろうな」

「それが今じゃ、ネオンきらめく観光都市ヴィル・トゥリスティークってわけか」

「郊外じゃ今もわからんがな」


 車は林の道を進み、断崖のうえへ出て海を望む。そしてまた、茂る木々の中へ入っていくが、三十分も走れば、また市街の夜へと戻ることになる。



「停めてくれ」

 ふいに、後部座席の男が言った。

「どうした」

「ちょっと、小便」

「我慢しろ、ここにトイレはない」

「いや……、ちょっと飲みすぎたかな」

「わからんな、三十分我慢できないか。さっきまで流暢りゅうちょうなフランセを操っていた男が、林の奥で立ちションとは」

下戸げこにはわからんロマンがあるんだよ」


 林の中に車が停まり、ひとりの男が茂みへと出ていった。



 ***


 男が戻ると、相棒の車はバックライトを点灯したまま停まっていた。黒い闇の中に光るその人工的な灯りへと、若い男はなんの気なしに向かっていく。


 運転席のドアは半開きで、相棒はうなだれるようにシートに身を持たせていた。

「戻ったぜ」

 男が声をかけて乗りこむが、返事はない。

「戻ったぜ、運転手さん。……おい、どうした」

 反応のない彼のようすに違和感を覚え、男は身を乗りだして相棒をゆすった。そして、気を失った若者のぐしゃりとつぶれた顔面を目の当たりにして、一気に血の気を失った。


 後部座席のドアを開き、若い男は転がり落ちた。慌てて起きあがり運転席へ向かうところを、棍棒を手にした二、三の黒い影が囲んでいた。音もなく、男の視界を闇がおおった。――




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