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沙耶はこれ以上、訊かれては危ういと、その奥様風から少しずつ斜めに離れていった。幸い、後の人波から声がかかることはなく、沙耶は係員の誘導に従って議事堂内を巡っていった。この間にも、沙耶の集積データは議事堂の歴史的経緯、機能、補助施設、衆参両院の個々の国会議員とその議員の性向、素性、経歴、特質etc.全てを網羅して抽出していた。沙耶自身にもなぜデータを抽出しているかが分からない。ただ、知りたくなって機械的に抽出したのである。この段階ではほとんど影響力がないと思われる微細な異常事態のせいに他ならなかった。
「どこか、出てたの?」
沙耶がマンションへ帰ったとき、もう保は帰宅していた。日没の早さで、外はすっかり暗くなっていた。
『ちょっとね、ブラッと、気分晴らし…。お腹減ったでしょ、すぐ作るわね』
「ああ…。気分晴らしか。なんか人間っぽくって、いい感じだな」
微細な異常事態が発生したことを知らない保は沙耶の言動を普通に受け取った。もちろん沙耶も微細な異常事態を感知していないのだから、どうしようもなかった。
「変わったことはなかったんだろ?」
『変わったこと? …別に。でも、都会の若い子って、社会常識がないわね』
沙耶は夕飯の支度を台所でしながら、そう言った。
「社会常識がない? …って、どういうことさ?」
『そんな、大したことじゃないんだけどさ。私がちょっと訊いた返しがさ、ムカついたのよね』
沙耶がムカつくのは、相当のことだぞ・・と、保は思った。というより、悪い予感が保の脳裡を掠めた、と言った方がいいだろう。




