初戦闘と初出会い
区切って書くと、意外と短くなってしまいますね。
服がなかなか乾かなかったので、木箱から服を拝借した。
『刻遠竜のローブ:ランクA+
時空竜序列第三位:刻遠竜の翼膜から作られたローブ。製作者はアーカム。隠居後に作成。エンチャントは『オールシフトⅡ』『加速戦闘Ⅲ』『時間耐性Ⅱ』』
…ぶかぶかで、腕が通らない。
当たり前だ、大人の服を子供が着てるんだから。
さて、小屋の探索でいくつかわかったことと、目的ができた。
わかったことからいこう。
一つ、この世界は魔法、ポーションなどの物的証拠からファンタジー世界だ。しかし、異世界の影響も少なからず受けてるらしい。
二つ、俺は魔法を覚えることはできる。特に時空魔法:異空間収納は便利だ。イメージはアイテムボックスだ。魔法だから、無償では使えないが。今は50kgまで入りそうだ。
三つ、ここに住んでいたアーカムさんは、億単位で懸賞金がかかる何かをやらかした人物。その人物に関わってしまった。
次に目的だ。
一つ、アーカムさんから預かった遺書を『エミリー・エルティシエ』に渡す。そのためにはハイエルフを探す必要がある。
二つ、記憶を取り戻す。もとい、自分の過去にまつわる物を探す。これに関しては、望み薄だ。
三つ、食料、水の確保。かつ、この洞窟から出る道の探索。
あと、おまけで、ペイルライダーとイーグルの作成だ。
大まかにはこんな感じか。
まだ起きて一日も経ってないのに、波瀾万丈だな。
何度か死にかけてるが。
次は装備、持ち物の確認だ。
武器:ミスリルナイフ
服:ジーパンとパーカー(今は刻遠竜のローブ)
道具:解析虫眼鏡
回復ポーション
謎生物のシリンダー
異空間
・回復ポーション×2
・マナポーション×3
・EXPポーション×2
・幸福薬×1
・刻遠竜の長杖×1
・炎魔法の秘伝書
・水魔法の秘伝書
・ペイルライダー設計図×3
・イーグル設計図×2
・その他の設計図×20
・ネクロノミコン
・魔石-魔法-魔物大図鑑
・錬金術入門書
・死霊術入門書
・ヤバいポーション×3
・食料&パン
・エミリーへの遺書
こんなところだ。
合計45kg。
結構ギリギリだ。
前々から気になっていたEXPポーションを使おうと思う。
『EXPポーション
特殊な魔素を一定量ずつ合成して作られるポーション。使用者の最大魔素を高める効果がある。』
「中身が緑色だけど、大丈夫だよな?」
ゴクゴク
一本目を飲み干す。少し苦味を感じるが、基本的にはライムとレモン味のようだ。そのまま二本目も飲み干す。
ゴクゴク
「ふぅ。まともに水飲んでなかったから、美味しく感じるなー。」
直後、体の内部に変化が。
体の芯が熱い。瞼が重い。眠い。
俺は、その場の床で倒れるように眠り込んだ。
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目を覚ます。
場所が地底湖のため、現在時刻がわからない。
だが、結構な時間を寝てた気がする。
よし、今日も活動開始だ。
まずは腹ごしらえ。
干し肉5切れと、黒パン1/6斤だ。
う~ん。上にチーズがあるとなお良し!
水がないので、口のなかパサパサである。
早く水を手に入れないと。
今日は周囲探索だ。
前回のようヘマをしないようにしないと。
着ていた刻遠竜のローブから、パーカーとジーパンにかえる。
こっちの服の方がしっくりくる。サイズ的に。
刻遠竜のローブを異空間に収納する。
驚いた事に150kgまで収納可能になっていた。
EXPポーションにより、最大保有魔素が三倍近く上昇したらしい。
体も前より軽い。探索が楽になりそうだ。
アーカムの隠れ家を出て1時間。
最初は光源をどうするか悩んでいたが、問題はなかった。
雷石。
この洞窟はこの魔石の鉱脈に入っているらしい。
石自体が僅かに発光しているので、光源いらずだ。
いくつか雷石を、魔法で抽出する。
結果。
雷石×5
雷晶×1
光源はあまり潰したくないので、程々に抽出した。
アーカムの隠れ家を出て3時間。
風の流れを感じる。出口が近そうだ。
だが、ここでトラブルが発生した。
『---うわぁぁぁ!!』
かなり遠くからだが、男性の悲鳴が聞こえた。
無視してもいいと思ったが、悲鳴の先が進行方向と被っているし、なにより俺にとって第一発見者だ。
急ごう。
着いた先は、天井から太陽光が差し込んでいる大空洞だった。
そこから落ちてきたのだろうか?
壊れた荷馬車がある。
その周囲には死体5人、男性1人、少女1人がいた。
死体は男性3人女性2人で、全員10歳以下の少年少女だ。
切り傷、打撲など傷がみられる。
生存している少女も、腹部の傷を受け瀕死だ。
男性は無傷ではあるが、動けないらしい。
死体は落下死したか、『あれら』に殺されたかだ。
あれら、つまるところゴブリンだ。
鬼のような形相、緑色の肌、ボロ布、魔物図鑑と一致する。
彼らを囲むように5匹いる。
彼らと違い、ゴブリンは剣など武装している。
…あまり、時間が無さそうだ。
俺はゴブリンの中に突っ込んだ。
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真っ先に狙ったのは弓を持っているゴブリンだ。
ミスリルナイフを握り、素早く背後を取り、喉を切る。
…手慣れている。経験かな?
生物を殺す事に抵抗がない。
ゴブリンはまだ俺の存在に気付いていない。
一番近いゴブリンに素早く急所の延髄を切る。
それにしても、このナイフすごいな。余裕で骨まで切れそうだ。
流石にゴブリンもこちらの存在に気付いた。
(この命のやり取り…懐かしいものを感じる。)
自分と等身のゴブリンが近い順に切りかかってくる。
俺は最初に切りかかって来たゴブリンのショートソードを受け流し、ショートソードを持っていた手を、上から握る。
ゴブリンの腕をひねり、完全に関節を極める。
極めたゴブリンを反対に向かせ、盾かわりにする。
(あれは確か、砂漠地帯の町の敵殲滅のときに…)
欠落したはずの記憶にノイズが走る。
盾となったゴブリンは、他二匹に切られ、息を引き取る。
俺はそのままゴブリンの死骸を盾にしたまま、生きてるゴブリンに向かい、ゴブリンの死骸ごと押し倒して首を延髄ごと刺し切る。
最後のゴブリンは戦況不利と、強敵の存在により、逃げ出す。
俺は死体になったゴブリンからナイフを引き抜き、逃げるゴブリンに投擲する。
投げたナイフはゴブリンの後頭部に突き刺さる。
(敵の殲滅が終わった後、俺は隠し部屋を見つけて…)
ノイズがより強くなる。
投げたナイフを回収する。
生存者を確認する。
一人は男性の大人。
20台ぐらいの青年で、金髪のウルフショート。ロングコートを着ている。銀の刺繍が所々に入っており、商人のような身なりだ。
いきなりの展開に、目を大きく開け、呆然としている。
一人は女性で少女。
俺と同じで、7.8歳ぐらいの少女だ。
黒髪のミディアムロングで、ボロ布を着ている。手足と首に枷と鎖が繋がれている。
また、さっきの戦闘のせいか、腹部に傷を追っており瀕死だ。うつ伏せになりながら、こっちをぼんやりと見ている。
(隠し部屋の中には少女がいて、俺はその少女を……)
ノイズがザザザと、不快な音をたてる。
アタマガイタイ
俺は少女に近づいていく、ナイフも握りながら。
少女はぼんやりと見ているだけだ。
(俺は少女を…、少女を……、どうしたんだ?)
気づくと、少女の目の前まで来た。
そこで俺は---
「君!!」
男が俺に声をかけたことで、意識がそれる。
頭からノイズが消え、遠くに見えた風景が消える。
俺は男性の方向を向く。
「僕の名前は、エイジス・ルクセルトだ。まず、助けてくれてありがとう。君がいなければ、僕と商品は死んでいた。…いや、商品は助からないかもしれないが、ありがとう。君の事を聞いてもいいかな。」
エイジス・ルクセルト。
恐らく、少女が商品で、彼は奴隷商人だろう。
ふと、少女に目が行く。
少女虚な目では口をパクパクしながら、天に向かって手を伸ばしている。
俺は………
それを他人事に感じず、助けなければいけないという使命感に駆られる。
俺はエイジスに向き直る。
「礼はいらない。代わりに報酬がほしい。」
「な、何かな?私に払えるものなら、払う事を約束しよう。」
「商品がほしい。そこの死体含めて。」
男の顔が明るくなった。
思っていたより大分良かったのだろう。
「ああ、それなら構わないさ。」
言質がとれたので、少女の方に向き直る。
少女相変わらず、天に手を伸ばしている。
少し顔色が悪くなってきた。
俺は少女の手を握る。
反対の腕で少女を抱き起こす。
少女の手を離し、麻袋から回復ポーションを取り出して飲ませる。
少女が窒息しないように、首も起こす。
虚な瞳は瞼を閉ざした。
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「それは……ポーションかい?」
エイジスが話しかけてくる。
「そうですけど、何かありました?」
「いや、君のような少年が高級品を持っている事に少し驚いてね。」
そうか、ポーションは高級品なのか。
使うときには気を付けなければ。
「そうですか。」
ポーションを飲ませた少女の体に変化が起こる。
傷口の肉が異常に盛り上がり、傷を塞ぎ始める。
最終的には、傷口も見えないほど綺麗に治った。
「さて、エイジスさん。私はこの洞窟を出ようと思っているのですが、貴方はどうしますか?」
「もちろん出るつもりさ。」
「なら護衛として雇いませんか?」
「……ああ、頼む事にしよう。」
「ええ、わかりました。」
エイジスは凄く渋い顔をしたが、渋々了承した。
「では、その子が起き次第出発したいのですが。よろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。」
「では、準備されてはどうでしょう?落ちた荷物もあるようですが。」
「そうさてもらおう」
エイジスは踵を返して、馬車へ向かう。
その間に、俺は死体の少年少女を回収する。
異空間収納で収納する。
なので、死体は残らない。
ただ、重量がギリギリで、残りが5kgほどしか容量がない。
しかも身体が気怠い。
恐らく、保有魔素が多く消費され、残りが少ないせいだろう。
俺はエイジスが来るまで少女の側で座って待っていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。