4.17 夜
結局その後トルクが口を開くことなく夜を迎える事となった。
黙りこくっていたトルクは寝ているわけでもなく、ただここではない所を見つめていた。その行為は過去を思い出し、その海に浸かる行為と酷似しており、リガンがいくらか問いかけてもトルクの目の焦点がリガンへと向かれることはなかった。
話相手がいなくなったリガンはテーブル上の本を戻すと、新たな本を求め本棚を物色し始めた。
祭での臨時に作られた図書館とは言え貴術族の蔵書が豊富にあり、本好きなリガンの好奇心は多いに満たされる結果となった。
一通りの興味がある本を読み終わり、リガンは満足し終わると本から目を離し首を伸ばすつもりで顔を上げる。そんなリガンの顔に光が差し込む。
その光は窓からの月明かりであった。
その時になってリガンは初めて時刻がもう夜であると知ったのだ。
結局の所図書館に出入りする者はおらずその為リガンは本に没頭し、時間を忘れる羽目となったのだ。
トルクの魔具を修復しているアクセサリー店の店主は夜には終わると言っていた。
トルクを起こさなければ、リガンはトルクの方へと向く。
そんなリガンの目に映ったのは相も変わらず心ここに有らずといった様相のトルクである。彼の胸元のポケットにはトラルンで貰ったであろう、枯れかかった一輪の花が差し込まれていた。
リガンにとってトルクは今だ謎多き存在である。それこそ何故その花を大事にしているのかも分からないのだ。トラルンでの一件で二人の仲は縮まったが、それでもトルクの考え方、過去全てを知ったわけではない。
命を助けられその人物に魔具を貰ったと言ったが何故そんな危機的状況に陥ったのか。それに異様とも思えるほどの魔剛への憎悪。そして魔王に反乱していた経歴をもつ。そんな謎多き人物である。
それに加え、勇者の事を憎んでいる点と魔王を憎んでいない点。その二つの考えはリガンのとは正反対である。
リガンは旅の最初とは違いトルクとの仲をより深めたいと考えるようになっていた。一緒に旅をしている間柄なのだがらその思いは当たり前の物であるのだが、以上の点から今だ二人の仲は完全にはなっていない。
「トルクっ、しっかりしてくださいもう夜ですよ」
トルクに近づくとリガンはトルクの肩を掴み揺さぶる。
トルクを正気に戻させる為なのだが、このような手荒な行為は以前の、旅だったばかりのリガンならしないであろう。
「っ!なんだいきなり肩を揺らして」
肩を揺さぶられ流石のトルクも正気に戻る。
そんなトルクに、つんけんした態度でリガンは接した。
「だってトルクずっとうわのそらで、その状態で何時間もですよ。もう夜になりましたよ」
「何、夜だって」
トルクは暗くなった辺りを見渡す。今現在図書館には明かりが灯っておらず、窓からさす月明かりだけが光源である。
トルクは顔を手のひらで拭う仕草をすると立ち上がった。
「済まない、もうこんな時刻とは気がつかなかった」
本当は何を考えていたのか、本来ならトルクに聞くべきなのだろう。
しかしいざ聞いてしまえば、自分とトルクとの中に漂う空気が悪くなってしまうのではないか。そんな懸念がリガンにはあり、故に聞きだせなかった。
「いいってことです、さぁ行きましょうか」
その思いを断ちきるようにトルクに笑顔を向けると、リガンは外への扉を開いた。




