4.16 憎む理由
「神話の時代に争っていた人間が再び姿を現した。そして先程の本の通りなら、それに呼応するようにセレント山脈がより大きくなり、世界エラントを脱出不可能な閉鎖空間とした。そしてつい最近魔剛の中から魔王が生まれ世界を恐怖に叩き落とした。関連がないというのが不自然じゃないじゃないか」
「ということはトルクは魔王出現も神の仕業と思うのですか」
「少なくとも関係はしているんじゃないかとは思うが」
魔剛は力こそあるものの知的種族の中では知能が低い部類であり、また数も現象傾向にあった。
その為魔剛が世界エラントを支配する、そんな話は出る筈がなく、故に人間の都市キリヤルが魔剛に支配された報が流れた時、皆信じられぬ思いであった。
最終的に魔剛が世界エラントの統治種族に成り得たのはひとえにその王である魔王のお陰である。
しかしここに一つ疑問がある。そんな衰退の末路であった魔剛をまとめあげ、しまいには世界統一まで成し遂げた魔王は一体何者なのか、そこまでの能力を有している者が魔剛から生まれることなど本当にあり得るのだろうか。
トルクはその事を指摘しているのだ。神の力が関与していれば魔王のような非凡な存在が魔剛の中から生まれるのは不自然ではないということを。
しかしそれはあまりに飛躍しすぎているというものだ。
「けど神セレンがそんなことに力を貸すと思います?結果的に世界エラントに住む魔剛以外の全種族が大変な目に合ったんですよ」
リガンが全種族を代表して言う。そんな筈はないと、セレン教を信じ、神セレンを信じ、そして魔剛の支配により苦しんだ彼女が。
故にリガンは否定する、そんな筈はないと。しかしトルクの意見は変わらない。
「神がそんなことまで考えていないんじゃないか、ただ絶滅の危機にある種族を助けたい、そう思ったかもしれない」
「そんな考えをもし起こしたとして、神が実現するとは思えません」
「そうか?絶滅の危機から救いたいと思う願いは人も神も関係ないと思うが」
意見の相違にリガンは違和感を覚えた。魔王を憎んでいる者ならばそんな庇うような発言はしないはずである。
魔王を庇うような発言、もしかしてトルクは……リガンは思いきって尋ねた。
「トルクもしかして魔王のこと憎んでいないんですか」
「魔王を憎む?何故憎まなくちゃならないんだ」
ケロリとした顔でトルクは答える。それとは正反対にリガンは口が半開きの状態となった。
「何故憎むってそれは当たり前でしょ、だって彼のせいで大勢の者達が苦しむ羽目となったのですよ」
リガンは思わず立ち上がった。トルクの考え方が信じられなかったからだ。
それとは対照的にトルクは座ったままであり、冷静である。このような二人の対称的な光景は旅の間幾度となく繰り広げられたものであった。先程まで楽しく討論し合っていた仲であっても関係ない。
そして今回は勇者の事ではなく魔王の事についてであった。
「けど魔王が行動しなければきっと魔剛族は滅亡を辿るだけでだった。魔王はただ王の責務として自種族の為に行動しただけだ」
「けどそれでどれ程の者達が苦しめられたかトルクだってご存じでしょう。だからこそトルクは魔王への反乱の立場を取ったんじゃないんですか」
「それはそうさ、僕達だってただ黙って支配を受け入れるわけじゃない。けど……結局は無駄だったんだ」
「無駄?」
それは勇者が魔王を倒した事を言っているのだろうか。魔王を自分の手で倒せなかったから、命をかけて魔王に反乱したのは無駄だったと。しかしトルクの声、表情を見る限りそのような意図で発言したようには見えない。
トルクは神妙な顔面となり口を閉ざす。その続きをリガンは待ち続けたがその後が紡がれる事はなかった。




