4.15 世界エラントの秘密
「……その大陸にいるはずがない人間との戦い。それが貴術族に伝わる神話、神々の戦いなのか」
神妙な面持ちとなるトルクである。
この話のような突飛な話題を聞かれた時、人が示す反応は二つに分けられる。冗談だとして笑い飛ばす者と真剣に聞くものの二つに。そしてトルクは後者の反応をとった。
真剣に聞いてくれるほど、話し相手として良い者はいない。
この時、リガンはつい数ヵ月前まで嫌っていた筈の相手との会話を楽しんでいた。
「そうなんです。それが貴術族に伝わっていた神話神々の戦いです」
テンション高めのリガンが答える。
しかしトルクには何か腑に落ちない点があるようであった。
「……ひとつ気になる点があるんだが、その神話に出てくる人間達は何処にいたんだ。世界エラントがもといた大陸には他人間族だけで人間はいなかったんだろ。一体どこから人間が湧いてきたんだ」
「それが詳しくは伝わっていないんですよね、私が聞いた話でもこの本の中でも海の向こうから現れたとしか」
本をめくりながらリガンは答える。
その本には幾つもの挿し絵とながったらしい文章が載ってあるが目新しい情報は書かれてそうにない。
そんなリガンの返答に、トルクは反応した。
「海の向こう?ひょっとするとセレント山脈向こう側の大陸ことか」
「それとも第三の大陸か、そこら辺は謎が多いんです。何せ何千年も前の話ですから」
「そうか……それでその戦いはどちらが勝ったんだ、人間か他人間族か」
「それも分かっていないんです。分かっているのはその戦いの影響で昔のエラントが大陸から離れ、数多の時を島として過ごすはめになったということぐらいで」
神々の戦いの話はだいぶ風化されており、詳細な情報は消え、話の道筋だけが残っている有り様である。
分かっていることと言えば、人間と他人間族、セレン・イレン宗教の宗教戦争であり、そこから神々の戦いと呼ばれるようになったこと。
またその戦いがどのような結末を迎えたか分からないが、その戦いにより当時まだ大陸の一部だったエラントが離れ島となるきっかけを作ったらしいということ。その二つのみである。
その為貴術族の老人達は子供達にこの話を聞かせる際自分なりの解釈を加えるのだ。
リガンが老人達から聞いた話の中には人間が悪で私達側の種族が善だという話。実はまだ戦いは続いており、エラントに住んでいた者達が戦いを嫌って静かな地目指して土地ごと移動したという話。神々の戦いには他人間族が勝ち、その報酬を受け取る為の旅をエラントはしているのだという話等多岐に渡る。
その一つ一つを話す訳にもいかぬので、リガンは確定された情報のみをトルクに伝えた。
しかし神話の内容は驚嘆に値するものであるがどことなくあやふやな箇所が多々あり、聞いていたトルクが満足いったとはリガンには思えない。
しかしトルクの白剣修復までの暇潰しとして、図書館に入り話をしたので、彼が満足いったかはどうかはともかく時間を潰せればよいのだ。またリガンとしてはセレント山脈の真実を知ることが出来ただけでも、ここにきたかいがあるというものである。
しばらく黙っていたトルクであったが、そんな彼がようやく口を開いて出した言葉は、リガンの予想外の物であった。
「因果なものだな」
「……はい?」
突如として放ったトルクの言葉にリガンは気の抜けた表情となる。
そんなリガンを気にせず、トルクは話し始めた。
「そうは思わないか、何千年も前に他人間族の前に現れ争いあった人間達が、今現在こうして再び現れた事に。それもエラントが流れ着いた先でだ。ほんとに君の言っていた通り一連の出来事には神が関わっているのかもしれないな」
トルクは不敵な笑みを唇の端に浮かべる。
そんなトルクの言葉と笑みを見て、リガンは口を挟まずにはいられない。
「一連の出来事というと何処まで神が関わっていると思うんですか」
気楽に聞いてくれとトルクに言ったように、リガンも最初暇潰しの話題提供として神々の戦いの話をしただけであった。
しかし今トルクと同様にリガンもまたこの話題にのめり込もうとしている。
そんなリガンの質問に、トルクが答えた。
「その神話から今現在の世界エラントまで、それこそ魔剛の中から魔王が生まれるまで」
この日、トルクはリガンの前で初めて責任以外の自身の考えを口にした。




