4.14 神話
「貴術族には神話と呼ばれる大変古い昔話が伝わっているんです」
本を開きながらリガンは話す。古い神話、そう言われ興味が湧かない男はいない。そしてトルクはそう言った意味では普通の男性であった。
「古いってどれくらい?」
興味心を隠さず、トルクはリガンに尋ね、リガンもまたトルクの質問に気兼ねなく答える。
「それも分からない位古い、それこそ世界エラントが大陸にぶつかる前の話ですから」
「大陸にぶつかる前って、それ何千年前の話なんだ」
トルクが半信半疑なのも無理ない話である。人間が山脈の向こう側から来た500年前の事すら、懐疑であるのに何千年前の話を信じられるほど単純ではない。
「1000年より前なのは確かです。まぁ神話ですからそこまで真剣に信じなくてもいいですよ。私がいた貴術族の村では子供達に聞かせるような内容でしたし、私もそこまで信じていませんから」
パラパラとめくっていきやがてあるページで手を止めた。
「ありました、ちゃんとした本だけあってかなり詳しく書いてありますね」
リガンが開いたページには本文と共に挿し絵が描かれていた。挿し絵は大勢の者達が戦いをしている光景が描かれている。
「その絵が神々の戦いを表しているのか」
トルクは腰を持ち上げ、本のページを覗きこんだ。
しかし絵の中の者達はどう見ても神とは思えない人間サイズな者達であり、トルクは目を細める。
「……これが神か?」
「そんな訳ないじゃないですか。この者達は貴術や魔岩等の種族ですよ」
「?じゃあ何で神々の戦いと言われてんだ」
「それは神々の代理戦争として知的種族が戦った話ですからね」
リガンの言った内容に、乏しい感情のトルクでさえ驚きを隠せない。
「神々の代理戦争だって?そんなのがあったのか!」
トルクの声が大きくなる。そんなトルクにリガンは釘をさす。
「貴術族に伝わる神話ではそうなっていますね。まぁ相当ぶっ飛んだ話ですので信じている人は少ないですが」
だから気楽に聞いてくれ、暗にそう言うリガンである。そんなリガンをトルクは意味深な目付きで見る。
「……君はこの話を信じているのか」
リガンがどのように思っているかトルクは問う。
そんなトルクの質問に、リガンは是非を示さない、曖昧模糊な表情となる。
「どうでしょうね、興味引かれる内容ですが流石にこの規模の話は……」
何とも言いがたい微笑とも苦笑ともつかない表情をリガンはする。そんな彼女の顔をトルクは吟味するようにしばらく見つめた後、視線を外した。
「……分かった、気軽に聞くことにするよ」
自身の言わんとすることをトルクが理解したようであり、リガンは安堵する。
浮かしかけていた腰を二人ともベンチにつけ、再度向かい合った。
「それでその代理戦争とやらを仕掛けた神々は分かっているのか」
トルクは代理戦争という単語をわざとらしくに強調した。
こうして話は再びはるか何千年前の神々の戦いに舞い戻る。
「分かってはいるんですが、それが驚きの内容何ですよね」
意味深な表情をリガンはとった。そんな彼女の次なる内容に、トルクは気になるようであり、急ぎ口調で尋ねた。
「驚きとはどういう意味だ」
「それが神イレンとセレンだと言うのです」
セレンという名が出たとき、トルクが反応した。
「セレン?人間が来るまでその名前はこの世界エラントにはないんじゃ無かったのか」
「そこで驚いてちゃ、この先驚きっぱなしですよ」
知っているが故の余裕の態度のリガンである。そんなリガンの態度に来るものがあったのか、トルクの眉間に僅かながらシワがよったが、何も言わずトルクは視線で先を促す。
先を促された事が分かったリガンは、何も話さず本題へと入った。
「何千年も昔、世界エラントはあの大陸にぶつかる前、実は他の大陸の一部だったんです」
「他の大陸?山脈向こう側の大陸ではなくてか」
「えぇ神話だとあの大陸とは別の大陸があったらしいんです」
驚愕の内容の連続で感覚が麻痺したのか、聞いているトルクはもう話の内容に驚かない。
「その大陸には何がいたんだ。まさか人間か」
「人間じゃなく、話によるとこの世界と同じく他人間族が沢山いたらしいんです」
その答えにまたしてもトルクは不満げである。
「他人間族ならなんで神セレンの名前が出てくるんだ。人間がいないのならセレンの名前が出てくる訳はないじゃないか」
「他人間族だけならね」
意味深な内容にトルクは目を細める。
「どういう意味だ」
「神々の戦いは実は他人間族同士の戦いじゃなく、人間と他人間族との戦いなんです」
その内容にトルクは口を硬く結ぶ。二人しかいないはずの図書館内がより一層静かになったように思われた。




