4.13 神の宗教
世界エラントには二つの宗教が存在する。
人間が信仰するセレン教。他人間族が信仰するイレン教。
またそれぞれの宗教の神も違い、セレン教では神セレンが、イレン教では神イレンが信じられていた。
神セレンの教えは皆仲良く、一緒に暮らそう。
神イレンの教えは皆ライバル、切磋琢磨しよう。二つの宗教は正反対の考え方である。
そしてトルクはセレン教を信仰してはいないが、神は存在していると一風変わった考えの持ち主であった。
「神イレンか・・・。そう言えば他人間族の宗教の現状はどうなんだ。貴術族の村にいた時どう感じた」
リガンは立ち姿からトルクとテーブルを挟んだ形でベンチに座る。より深く討論するためだ。
「貴術の事しか分かりませんが、私達人間よりはだいぶ信仰心が薄くて、ほぼ形骸化していましたね。信者と呼ばれる熱狂的な者達は変人扱いされていました。それに神を信じていない人も結構いましたね」
「そうなのか。ということは君も?」
「いや私はセレン教の教えを信じていますし、それに神セレンもいると信じています」
リガンは胸に手を当て答える。
今の人間社会においてリガンのような宗教観念が一般的である。
宗教を胸に生き、神の存在を疑わない。
一方トルクのように宗教には従わないが、神の存在は信じる派は少数派であり、まして神の存在を否定する者は変人扱いされていた。
それが今の世界エラントに住まう人間達の宗教論である。
このようにリガンらの話題は山脈のことから宗教の事へと変わっていく。
「けど人間だけがセレン教を信じているなんて不思議だよな。それ以外の種族はイレン教なのに」
トルクが疑問を口にする。それはリガンも気になっていた事であった。
「人間がセレント山脈の向こう側から来たことと関係が有るのかも。向こうだとセレン教だけしか無かったとか」
「だとしたら世界エラントしかイレン教が存在しないのか」
「だから人間達が入ったとき、他の宗教の派閥を大きくしない為に山脈が大きくなったのかもね」
リガンは気兼ねなく答えたが、その解はトルクにとって予想外であるらしい、しばらく考え込む姿勢をとる。
「・・・確かにそれは有るかもな。イレン教の考え方は他人と馴れ合わず、競いあえといったものに対してセレン教はその反対他人と仲良くしろだからな。イレン教にとってはこれ程邪魔な存在はないだろう」
半ば冗談で言ったものにトルクが真剣に食いついたので、リガンは急ぎ否定する。
「い、いやトルク冗談ですってば、イレン信者がセレント山脈を大きくするといった神紛いの力を持っている筈がないじゃないですか」
「いや、もしかしたら神イレン自身がやったかもしれないぞ」
スケールがでかくなる話にリガンは置いてかれそうになるが、神関連のとある話を思い出した。
その話も神が関与した話でとてつもなく規模がデカイ話であった。
「そういえば神イレンと神セレンと言えば面白い話が有るんですよ」
リガンの話の切り替えにトルクは嫌な顔ひとつしない。それを見てリガンは続ける。
「トルク、世界エラントが出来た経緯は知っていますか?」
「この世界が出来た経緯?いや知らないな。さっきの本だと世界エラントはかつて島だったことになっていたが・・・まさかその原因が神とでもいうのか」
「貴術族の話だとそうなっていますね。まぁ神話と呼ばれるほど古い話で、私も本で読んだんじゃなく、貴術族の方に昔話として聞かされたんですが」
リガンは立ち上がると、ある本棚へと向かい一冊の本を取り出す。そしてそれを持ってきて座り、テーブルに広げる。
「なんだそれは?」
トルクは本を一目見た後質問した。
リガンが持ってきた本は古く、かつ大きく分厚いものであり、読むのが辟易させる物であった。だが、本好きな人間としてはこれほど興味引かれるものはない。事実リガンがそうであった。
「先程セレント山脈の本を探していた際に見つけたものなんです。題名は神々の戦い」
普段より明るげな声でリガンはそう言うと、おもむろに分厚い本を開いた。




