4.12 神の存在
「1000mってそんなに」
驚愕の数字にリガンは驚嘆にも似た声が出る。一方のトルクは声こそ出さないもののリガンが見る限り、驚いているようであった。
間をおき、トルクが目でリガンに無言の合図を送る。その合図を受けリガンは先を読み始める。
「セレント山脈は世界エラントがまだ島だった頃、大陸とぶつかった衝撃で双方の土地が盛り上がり出来た山脈である。それ故に今だ盛り上がり続け標高が高くなるのは不自然ではない。しかし50年に1000mも標高が高くなる、その速さは流石に異常と言う他ない」
そこでリガンは一呼吸つくとまた続ける。
「セレント山脈を観察している際私はある本に出会った。その本は世界エラント全土のことが書かれていたがその中にセレント山脈のことがあった。その内容は興味深いものでなんとその人も私と同じようにセレント山脈の異常な成長に気づいていたのだ。そしてその項目の最後にはこう書かれていた。
セレント山脈がでかくなり始めた原因は山脈からやって来た奇妙な種族によるものではないかと思われる。何故なら彼らが姿を表した後セレント山脈は大きくなり始めたのだ。山脈を越え向こう側の世界からやって来た者達は自身のことを人間と言った」
読み終える頃にはリガンの全身には鳥肌がたっていた。それほどまでに驚きかつ貴重な情報であり、これだけでも旅に出たかいがあると感じられるほどである。
しかしながらそんなリガンに対し、トルクは不機嫌な顔つきであり、リガンはそんな彼の表情が気になった。
「……何か気になることでもあるのトルク?」
恐る恐るリガンは尋ねる。不機嫌な顔つきのトルクは、彼女の言葉に怒鳴るといったことはせず、本を見つめる。
「この本によると、僕達人間は山脈の向こう側から来たことになるな」
「そうだけとそれがどうかしたの」
「別にそれはいい、僕はセレント山脈の向こう側から人間が来た説を否定的に見ていただけで、完全に否定していた訳ではないからな。けどセレント山脈が大きくなった原因を人間に押し付けられ何も思わずにいられるか。僕達人間がそんな力持っている筈がないのに」
意外と人類全般の事について関心は持っているんだな、リガンはトルクがそんな考え方をすることに多少驚きを感じる。
しかしトルクの言うことも一利あった。
「確かに私達人間が山脈を越えてやって来た頃にでかく成り始めたからといって、原因扱いされるのは心外だよね」
「その通り、もし山脈が大きくなったのが本当でそのせいでこの世界エラントから出られないとしたら、この世界を造り出した奴こそが原因だと思うね」
トルクが饒舌になっているのはこの話題故なのか、それともそれだけ自分との距離が縮まったということなのかリガンには判断つかなかったが、好奇心旺盛なリガンにとって議論が出来るのは嬉しいことであった。
「造り出した奴というと神セレンのこと?」
「それ以外に誰がいる」
「いや、トルクが神がいると信じていることが意外で」
「神がいることぐらい信じているさ。頭のおかしな無神論者とは違う」
トルクが神の存在を信じていることはリガンにとって意外であった。
これまでのトルクの行いを見る限り神を信じているとは思えなかったのだ。
何故なら神セレンの教えを守るセレン教は人と人との繋がり、助け合いを信条としており、トルクとは真反対の印象であるからだ。
それにトルクは自身がセレン教の信者でないとリガンとの初対面の時はっきりと公言している。
「けどセレン教は信じていないんでしょ」
リガンかそう尋ねると、トルクは当たり前だと言わんばかりの顔と態度となる。
「神セレンの教えは間違っていると僕は思ってる。けどそれと神がいないとでは話が違う、神はいると僕は考えている。もしかしたらセレンとは違う神かもしれないけど」
「違う神?それって神イレンの事?」
頭を傾げつつリガンは別の神の名を尋ねた。




