4.11 分け隔つ山脈
ここから数話は世界観説明となります。
「それで、君は何の本を探しているんだ」
笑い声をおさめトルクは尋ねる。
一方、トルクと同じように笑い声をおさめたリガンは、本棚から目を離すことなく、答えた。
「うーん、この世界の事全般ですかね」
「この世界?世界エラントのことか」
トルクは疑問を含んだ声で尋ねる。一方のリガンはというと本棚から別の本棚へ移動し、本を探している。
リガンとしては、勇者の事や魔王の事を知りたがったが、魔王が倒されてから今だ1年ちょいしか経っていない現在、彼らの事を書いた本など出版されていない。その為、リガンは子供の頃から興味があったこの世界エラントについて、この機会により詳しく知ろうと考えたのだ。
「私がいた貴術族の村は小さくて、あまり本がなかったんですよね。それに故郷の街は他の街と同じく人間の街でしたから世界エラントを詳しく書いた本は無かったんですよ」
そこでリガンは一旦話を止めると、トルクに言葉を投げかけた。
「トルクは私達のご先祖さんがセレント山脈を越えてこの世界にやって来たのは知っていますか」
「僕達人間は元はセレント山脈の向こう側、大陸側からやって来たという話だろ。だから僕達人間は今だこの世界の事について多くを知らない……とお年寄り達はそう言っているが本当なのかどうか僕は半信半疑なんだよ」
「そうですね、あんな頂上が見えないほど高い山脈を越えてきたというのは今じゃ信じられないですよね」
「それにその話が本当で大陸から世界エラントに来たのなら、その逆も出来る筈だからな。けど実際は山脈を越える事に成功した者など今までいない」
セレント山脈はその高さから世界エラント中からどこでも見られる。またセレント山脈は世界エラントの最北端に位置し、西から東へ真っ直ぐ延びているため、旅人が方角を確認する際とても役立っていた。
実際リガンらもセレント山脈を見ることで方角を確かめている。
しかしその山脈がこの世界エラントと向こう側の世界、大陸側とを分け隔ており、セレント山脈を越え大陸側に行くことに成功したものは今だいない。
話によると人間がセレント山脈を越えエラントにやって来た時にE.Wの年号が始まったといわれているが、今はE.W529年、その話も風化し昔話となっており、真偽のほどは定かではない。
その為トルクのように人間が元は大陸にいた事に疑問を抱く者も少なくないのだ。
「セレント山脈を越えられない理由はその標高にある。そのあまりの高さに人類は敗北を喫し、この世界から出られないのだ。……私が幼い頃読んだセレント山脈について描かれた本にそうかかれていました」
「実際にその通りだな。山脈さえなければ魔王の支配から逃げ延びることが出来た」
「けど別の、本というよりは手記みたいな物ですが。それにはこう描かれていました。……セレント山脈は年々その標高を高くしている。それもあり得ぬ速さで」
その内容にトルクは目を細める。
「……君はそれを信じているのか。山脈が大きくなっているなんて話聞いたことないぞ」
「けどその話が本当ならご先祖さんが山脈を越えることが出来た理由が説明つきます。昔はあそこまで大きくなかったと考えれば」
「……」
「その真偽を確かめる為に貴術族のセレント山脈について描かれた本を探しているんです。私がいた貴術族の村は小さくて歴史書などの類いはありませんでしたが、ここならありそうです。それに他人間族は大昔から世界エラントにいましたし、それに貴術族は山脈付近に生息していますから関心があると思うんだけど……」
何一つ見逃すまいといった形相でリガンは本棚にある本を端から順序に探していく。
貴術語が読めるリガンとは異なり読めないトルクはそんなリガンを見ながら体を休めていた。
特にすることがなくトルクがあくびをするようになった頃、リガンが一冊の本を取り出した。
「ありましたよ、セレント山脈の歴史 この本です」
リガンは興奮し、その本をトルクいるテーブルまで運び置いた。
リガンはテーブル上で本を広げ読み始める。貴術語が読めないトルクはそんなリガンをただ見つめている。
「ありました、セレント山脈の標高の変異について」
舞い上がった声を出したリガンがセレント山脈の歴史と書かれた本の中のとあるページの文の一端に指を置く。
そして本文を指でなぞりながら翻訳し声に出していく。
「セレント山脈が世界エラントと向こう側の世界とを分け隔てているのは承知の事実だが、山脈が年々高くなっていると知るものは少ないだろう。常日頃目にしているものだけにその変化に気づきにくいのだ。私は幼い頃から観察を続けこの本を書くまで50年間、一日も休むことなく観察をし続けた。そして分かったことはセレント山脈は年々大きくなっているということ。そして50年もの間に1000mもの速さで大きくなっているという事実である」
1000m。セレント山脈が年々大きくなっている事実にも驚きを感じるがその伸びの速さに畏怖の念すらリガンは感じる。
そしてそれを聞いたトルクの顔つきも真剣なものとなったのであった。




