4.10 数奇な運命
扉を開けリガンの目に入ってきたのは壁一面の本棚とそこに詰まっている本であった。まるで壁が本で出来ているかのようであり、本好きなリガンにとっては楽園のような場所である。
建物全体が石で出来ており、床や中央にあるテーブルはもちろん石造りである。その為歩く事にカツカツと心地よい響きがなる。
図書館の中は誰一人いなく貸し切り状態であった。
その為本好きなリガンはテンション高めのまま大いに騒ぐ事が出来た。
「凄い、凄いですよこんなに沢山の本初めて見ました」
リガンは図書館の中に入るとさっそく近くにある本棚へ行き、背表紙を眺め始める。
背表紙は勿論の事、本の中身も貴術語でかかれており、リガンは読めるから良いにしても、読めないトルクにとってすることはない。
トルクは中に入ると本を開くことなく早々にテーブル近くの横長の椅子に座る。
今リガンらは貴術と魔岩の祭会場の隅にある図書館に来ていた。
人間の感覚なら祭に図書館なんていらないのだが、本質的に物静かな性格である貴術族と魔岩族にとって騒ぐ祭の場においても安らぎの場を必要としている。
貴術族は本が好きな者が多い、そして魔岩は石に囲まれた静かな場所がいい。双方の願いから休憩所的な役割として石造りの図書館が作られたのだ。
そんな図書館に人間であるリガンとトルクはいる。
「それにしても君、そんなに本が好きなんだな」
テーブルに肩肘をつけながらトルクは本棚を見て回っているリガンに尋ねる。
一方のリガンはトルクの方を向くことなく、本棚から視線を外さない。
「幼い頃から好きですよ。けどこんなに大量の、しかも貴術族が書いた本を読めるなんて夢のようですよ」
リガンはこれまでにないほど物事に夢中になっていた。そんなリガンが見ている本は貴術族の本でおり、中身は勿論全て貴術語である。
そんなリガンに対し、トルクはとある疑問をぶつけた。
「君は何故貴術語が分かる。しかしもその年でだ」
「あれ、言っていませんでしたっけ。私最近まで貴術族の村にお世話になっていたんですよ」
あっさりと答えるリガンとは裏腹に、トルクは驚く。
「貴術族の村にいたのか君は」
「はい、ラスルト地方北部のセレント山脈付近の村に」
「……勇者に助けられたり、貴術族の村で過ごしたり意外と数奇な人生を歩んできたんだな君は」
トルクは感嘆するかのようなため息をついたが、リガンから言わせればトルクも大概である。
「そう言うトルクだって、魔王への反乱活動に参加していたり、命の恩人に鍛えてもらった挙げ句、貴重な魔具を譲ってもらうなんて、ただならぬ過去をまっているじゃないですか」
リガンは本棚から目を離し、トルクに向き直る。リガンとトルク双方の目が合う。
するとリガンの中に沸々と暖かいものが込み上げてくる。それはトルクも同じようであり、同時に二人は笑い出した。
それは他者を嘲るような笑いではなく、人と人がとの繋がりを感じさせるような暖かい笑い声であった。
静かな室内に二人の笑い声が響く。
二人とも分かったのだ、相手も自分と同じぐらい奇妙な過去を持っていると。そしてだからこそこうして出会い一緒に旅をするようになったということを。




