4.4 祭の為に
「一から作ったんですよ、この会場を。いやぁそれにしてもこれだけバカ騒ぎしても怒られないってのは最高ですね」
ヤハラは両手を広げ、自由を謳歌する仕草をする。
しかしながら、ヤハラがあっさり言ったため、リガンはヤハラの言った意味を理解するまで少しばかり時間がかかった。
作った、作ったって言ったのか彼は。リガンがそう戸惑うのも当然である。
石造り、かつ街と思われる程の規模をたかが祭の為に作ったと言われすんなりと受け入れる筈がない。
「え、作ったってここの建物全部?」
「うん、そうだよ」
「祭の為だけに?」
「そう祭の為だけに作ったんだよ。おかげで賑わってるけどね」
半信半疑のリガンとは裏腹に満面の笑顔でヤハラは答える。
どうやら本当に祭の為だけに作ったらしい。そのスケールのでかさにリガンの頭を抱える思いである。
リガンがそのような状態の為トルクが後を次いだ。
「祭の為だけに作ったっていったけど、君達は本来どこに住んでいたんだ。ここの環境は貴術・魔岩共に適していないと思うが」
「どこに住んでたって、俺を含めた貴術の皆はセイナイ街から。魔岩の皆さんはアナトナ街から来ているよ」
無愛想なトルクとお調子者のヤハラ、対称的な二人である。
その為、トルクの出す声はいつも以上に冷たく感じられた。
「セイナイにアナトナ、確か二つともトリアン地方のセレント山脈麓付近にあったはず。世界エラント中央に位置するカラカラ砂漠とは随分離れてるじゃないか」
表情は変えず、トルクは手振りを交えて、質問する。
ヤハラの言っている事は信じられないものである。もし事実であるならば、祭をするために何ヵ月も歩いてここまで来たということになる。それは到底信じられぬことであった。
そして当然ながらそんな根性をヤハラは持ち合わせていない。
「もちろん歩いて来た訳じゃない、魔導道を使ったのさ」
「魔導道?」
トルクは一般的な知識は持ち合わせていたつもりであったが、この魔導道という言葉を聞いたことがなく、それが一体何なのか推測することすらままならない。
しかし幼い頃、本を読みまくっていた彼女はトルクとは違い、その言葉を知っていた。
魔導道という言葉が聞こえ、リガンは抱えていた頭を挙げる。
「魔導道がここにあるんですか!」
突然のリガンの大声にトルクは薄めながらも驚く。
「どうした、そんなに魔導道とやらが珍しいのか」
トルクは疑問を抱いた顔でリガンに尋ねる。それに引き換えリガンは子供心丸出しの興奮した様子であった。
「凄いなんてものじゃないです、だって魔導道といえば歩く必要なく一瞬で他の場所に移動できる高等魔術ですよ。まさか本当にあるなんて信じられない気分です」
「魔導道はそんなに便利なもんじゃないけどね。けっこうめんどくさい制約があるし」
「というとどんな制約があるんです」
未知なる知識に夢中といった感じでリガンはヤハラに詰めかかる。
ヤハラも特に隠す必要なしと考えているらしく、部外者であるリガンに向け説明し始めた。魔導道とは一種の魔術であること。発動には莫大な魔力と高度な魔術技量が必要であるため一人では発動出来ず、幾人もの魔術士が必要であること。また発動するのに一週間程時間がかかるため手間暇がかかるということ。そして問題となるのが移動先であるという。
「魔導道の移動先は魔力が薄い地でないと駄目なんだ。大気に満ちている魔力が障害となっちゃうから。だからここカラカラ砂漠はそういう条件では最適地なんだ。生命の営みがほとんどないから」
ヤハラはリガンらの向こう側、カラカラ砂漠一帯を見渡す。
そこには草木一本足りとも生えていない不毛の地である。
「だからといってここじゃなくても良いじゃないですか、いやむしろ故郷のセイナイやアナトナでやればこんな炎天下でやらなくてもいいのに」
リガンは視線を上に上げる。空は青く太陽の光が注ぎ込んでくる。貴術や魔岩は日影の地で暮らしており、陽の光は苦手であったはずである。そんな彼らが何故こんな直射日光激しい地で祭などするのかリガンは疑問に感じたのだ。
そんなリガンの質問に、ヤハラは包み隠さず答える。
「本来なら故郷で祭をしたかったんだけど結構口うるさいのが多くてね、仕方がなしに騒いでも文句が言われない地で祭をしようって話になったんだよ。それに僕達は陽より影のほうが暮らしやすいってだけで何も陽が駄目な訳じゃない。それに騒ぐならじめじめした所よりもカラッとした所の方がいいし」
両手を広げ、瞳を空へと向けて陽の光を一身に受けるポーズをヤハラは取る。カラカラ砂漠の太陽にうんざりしているリガンとは違い、ヤハラはこの環境を好んでいるようであった。
「それにここはかつて貴術と魔岩が協同で魔剛軍に立ち向かっ……あっ!」
突拍子もない声を出しヤハラはトルクに指を指す。そして口にしたのだ、思い出したと。




