4.3 気さくな貴術族
やって来た貴術族は警戒している者達に向け、手を挙げる。どうやら任せてほしい、その意思表示であったようだ。
そして反感なくその意思を皆が受け、元の喧騒に戻っている辺り、その者はこの街において相当な地位についていることは疑い無い。
「初めまして、ヤハラです。一様ここでの総責任者という事になってます」
やって来た貴術族の男性は身長2Mを越す、人間側からしてみればかなりの長身であり、リガンは無論のことトルクよりも背が大きい。
年は若者世代を少し通り過ぎた頃合いと思われ、髪は肩を優に越した長髪、服装は地面すれすれまで伸びる長い裾を有した白い清潔な服を纏っていた。一般的な貴術族の格好である。
貴術族の男性ヤハラは自身の自己紹介を先にし、手を差し伸べる。どうやらリガン達に合わせ人間の作法で挨拶を行ってくれるらしい。
そんなヤハラに応じてリガンも手を差し伸ばし、握手を交わした。
「初めまして、私はリガン。隣にいるのがトルクです」
挨拶をかわしリガンとヤハラは手を離す。手を離した後ヤハラはリガンとトルクの顔を交互に見つめた。
「リガンにトルクね、覚えたよ。それにしてもリガン、君は貴術の言葉が分かるのかい」
気さくなヤハラの態度に気分を害されることなく、リガンは答える。
「少し前まで貴術族の村にお世話になっていたものですから」
「貴術族の村に?それは凄い。一体どこの村か教えて貰って良いですか」
「タラハン村という所です」
「タラハン!あそこは良いですねぇ、森林が深く安らぐ色をしている」
リガンとヤハラ二人の会話が盛り上がる、しかしながら二人の言語は貴術語であり、トルクには何が何やらさっぱり分からない。
トルクはヤハラではなくリガンの方へ体を向けた。
「すまない、今どんな話をしているんだ」
トルクに尋ねられて、リガンは自身が人間の言語である広語ではなく貴術族の言葉である貴術語で話していることを思い出す。
現在の人間社会において他人間族の言葉を話せるリガンのような存在は少なく、広語しか喋れない人が一般的である。
そしてトルクは無論人間の言語である広語しか喋れない。
リガンがヤハラとの会話を説明しようと試みるより先にヤハラが口を開いた。
「ごめんごめん、リガンさんが貴術語を話すものだから、てっきりトルクさんも話せると思ってたよ」
ヤハラが口にしたのは人間の言語である広語であった。その事にリガン・トルク共々驚く。
「ヤハラ、君は広語が話せるのか」
「今時広語を話せるのは大勢いますよ、それよりトルクさん、俺はどっかであんたを見た気がするんだが人違いかねぇ」
トルクの問いにあっさり肯定した後、ヤハラは顎に手を当て腰を曲げトルクの顔をまじまじと見る。
自分より背の高い者に見つめられ、トルクは体を少し仰け反らせた。
「ヤハラの事知ってるのトルク?」
「覚えはない。それより貴術族にしては随分な性格じゃないか、ヤハラ」
トルクは悪口のつもりで言ったのだろうが、ヤハラに取っては誉め言葉であるようだ。
ヤハラはトルクから顔を上げ、顎に当てていた手を後頭部へとまわす。
「いやぁやっぱりそう見えます。だったら努力のかいがあったというものですよ。街の皆どうも辛気臭くてこんな奴等になってたまるかというもんです。それに祭の真っ最中ですしね」
「祭?だからこんなに騒がしいのか」
トルクとリガンはヤハラの向こう側、賑やかや方へと目を向ける。
街の中では物静かで有名な貴術・魔岩が飲んで騒いで歌って踊っての大騒ぎであった。
「ん?じゃああんた達、俺たちの祭の事を知ってここに来たんじゃないのか」
「あぁ、たまたまここら辺を歩いてた時見つけてよってみただけだ」
「なぁんだ、せっかく一から作ったんだから、興味本位で来たと思ったよ」
「一からって?」
リガンはヤハラに尋ねた。一から作ったとはどういう意味か気になったからだ。そしてヤハラの答えはリガンの想像以上の物であった。




