4.1 蜃気楼の街
ーE.W529年12月2日ー
「暑い、死ぬ」
二人ともトラルンからもらった服をしまい、出会った当初の旅人の格好で歩いている。そしてリガンは額から汗を流し背筋を曲げ、歩くのがやっとといった様相であった。
この時、リガンらは陽高く登るカラカラ砂漠を歩いている。
苦しげに歩くリガンと引き換え、リガンの前方を歩くトルクは額に汗をかけど、足取りはしっかりしていた。
今リガン達は世界エラント中央、マキアナ・ルクヤル・インコン・トリアン地方の4つの地方に跨がり存在するカラカラ砂漠にいた。
世界エラントは12月に入り冬も到来かと思われたが、カラカラ砂漠にとっては関係のない話のようである。
砂ではなく岩石が露出したカラカラ砂漠において昼間は灼熱、夜は極寒といった旅人泣かせの両極端な様相であり、身も心もリガンは疲れきっていた。
「だいだい何でこんなところに来ちゃったのよ、ここを避けることも出来たんじゃないの」
「それは前にも言っただろ、手に入っていく地図を頼りに街から街へ渡り歩いてたらこのカラカラ砂漠へ来てしまったって」
この話題にうんざりしたような顔で、トルクは後ろにいるリガンの方を振り返る事なく答える。
そんなトルクの胸にはトラルンで貰った一輪の花が刺されていた。
しかしそんな一輪の花があっても、トルクはどうであれその花が見えない今のリガンにはこの気持ちは収まらない。
リガンは苛立しげに服のポケットからカルムの実を取りだし、口に放り込む。
すると実の中からほのかに甘い水分が流れ出る。
水分を得たことによりリガンの気分は落ち着いた。
「けど、ここに住む人達がいい人でよかったですね。じゃなきゃ私達今頃干からびて死んでいましたよ」
「そうだな、地下族があんなにも友好的な種族とは思わなかった」
「地下に連れられた時はどうなることかと思いましたけどね」
二人の談義に花が咲く。トラルンでの一件以来二人の仲は他人同士から友人とは言えないまでも知り合い同士位にはなり、たまにこうやってとりとめのない会話をするようになった。
カラカラ砂漠地下にいる地下族にカルムの実を頂いた時、リガンはトルクが断るものだと思っていた。
これまでの行動からトルクは人から善意を受けるのを嫌っているのは確かであり、地下族での一件はその例に漏れないものである。
しかしトルクは地下族の礼を有り難く受け取った。その事にリガンは疑問を抱き地下族の村から地上に出た際尋ねた、どうして受け取る気になったのかと。
そしたらトルクはこう答えた。僕達は彼らに外の世界の事を話したんだから礼を受け取るのは当然だと。
はたしてそうだろうか、かつてのトルクならそうは言ってもきっと受け取らなかっただろう、リガンはそう思っている。
何故トルクが人からの善意を受け取ったか、それは分からない。しかしトルクの態度が軟化したのは事実であった。
トルクとリガンがカラカラ砂漠で出会った人達の会話をしているとき、トルクの足が止まった。それに釣られ後方にいたリガンの足も止まる。
「何ですかトルク、いきなり止まって」
「見ろ、街がある」
リガンはトルクが指差す方向を見る。するとかなり離れた前方に街らしき面影が見られた。
「こんなに暑い所の地上に街なんて作りますか?カラカラ砂漠で出会った地下族や人間達は皆地下に住んでたじゃないですか」
「じゃあ君はあれを何だと思うんだ」
「蜃気楼じゃないですか、今までだって湖があると思って行ってみたらなかったって事幾度もあったじゃないですか」
そうリガンとトルクが言い合いをしてるとき、リガンの耳にふとトルク以外の音が入り込んでくるのを感じた。
その音が何の音だが分からぬ程に小さな音であったが、確かにリガンの耳には聞こえた。
リガンがトルクの顔を見るとトルクもまた同じような顔をしていた。
今この辺り一面には何もなかった。周りに広がるは乾ききっている岩石ばかりである。前方に見える場違いな街を除いて。
「じゃあ」
リガンはトルクから視点を前方に見える街へと移す。そしてトルクもまたリガンから視点を街へと向ける。
この時二人の考えていたことは同じであった。あの街は蜃気楼ではない、確かに存在しているという事であり、そして二人の次の目的地が変わった瞬間でもあった。




