3.43 魔具の所有者
カタンを看取った後、リガンはトルクの元へと赴く。
トルクはカタンから離れた所に立っていたが、そんな彼の背中には、ひどく小さいようにリガンには思えた。
「カタンは死んだのか」
背後から近づくリガンに振り向くことなく、トルクは尋ねる。
その言葉を聞きリガンは立ち止まった。
「えぇ、先程勇者のことを尋ねていた最中に」
「……そうか死んだか」
ため息にも似た哀愁漂う声でトルクは呟く。
顔は見えないもののリガンには、トルクが悲しみにくれているのが分かった。しかし何故彼が悲しんでいるのか、また悲しんでいる彼をどうやったら慰められるのか、リガンはまだ知らない。
その為リガンが出来ることと言えば話題を逸らすことのみであった。
「トルクは怪我、大丈夫ですか」
リガンの問い掛けにようやくトルクはリガンの方へ体を向ける。その顔はいつもながらの無表情であったが以前あった覇気は感じられない。
「大丈夫だ、傷口は氷魔術で塞いだからな」
トルクはリガンに腕を指し示す。トルクの腕には幾つもの切り傷とそれを塞ぐように氷が張られていた。
塞いだといっても、傷口であることにかわりない。リガンは不安げな、心配する表情になるが、そんな彼女を今度はトルクが気遣ったのか、話題を変えた。
「それよりも勇者についての情報は聞き出せたか」
腕を引っ込め、トルクは尋ねる。
そして勇者の事となると人が変わるのがリガンである。不安に塗られた表情を一変させ、リガンは身ぶり手振りを使い説明し始めた。魔王がヤンク城に籠っていたこと。カタンがキリヤルの副隊長であることは本当だったこと。そしてそのカタンが、魔王が倒される少し前に勇者がキリヤルに来ていた所を見ていたことを。
リガンの説明にトルクは口を挟まず聞いている。そしてリガンが話終わった後口を開いた。
「……ひとつ提案があるがいいか」
「良いですけど、何ですか」
「僕は君の、人を助けたいという願いを手伝った。だからそのお返しと言ってはなんだが勇者の事を少し教えてもらえないか」
「勇者の?」
「僕は憎んでいる勇者の事を知らない。だから知りたいんだ、君の言う勇者が一体どんな奴か」
トルクの提案は勇者の事を教えてくれと言う物であった。
確かにトルクの言う事も一理ある。実際リガンはトルクに対し、ある種の申し訳なさを感じていた。トルクは嫌いな筈の人助けを手伝ってくれた上に一番危険なカタンとの対戦を引き受けてくれたのだ。代わりに責任を負わないとトルクは言ったが、それだけでは足りないんではないか、リガンは密かにそう思ってもいたのだ。
「分かりました、全てとは言えませんが少しなら話せます」
トルクは旅の安全を守り、リガンは勇者の情報を活かして手がかりを追う。
そして勇者の情報をトルクには話さない、そういう取り決めだった。何故ならトルクが勇者の情報を手に入れればリガンは用なしとなってしまうからである。
だからこそ、先程のカタンとの会話を聞こえさせないよう、トルクを遠ざけたのだ。
しかしリガンは先程の気持ちから、少しなら勇者の事を話しても良いと思うようになった。
そしてリガンは勇者に関する情報をトルクに一部公開した。
「勇者はトルク、貴方と同じ魔具を手にしていました。火属性の、剣の魔具を」
「火属性の、剣の魔具を……」
リガンとしては当たり障りのない、言い換えるなら言っても特にデメリットがない情報を言ったつもりであったが、それ故にトルクの反応が意外なものであった。
トルクは一歩後ずさりすると、口に手を当て動きを止める。その行為、その表情は何か困惑している様子でもある。
勇者が魔具を所有していた、その事に何か驚く要素があったのだろうか、リガンは不思議に思い問おうとした時である。
トルクが咳をし、それを手で受け止める。そして咳を受け止めた手を離す。そんなトルクの掌と彼の口を見て、リガンは驚いた。
トルクの手には先程まで無かった血が付いており、口からは血が流れていたのだ。
トルクは血が付いた自身の手を見つめた後、地面に倒れこんだ。




