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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第3章 支配と解放と……
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3.42 勇者の手がかり

「自由だ!」

「解放された、解放されたぞ!」


 トラルン全体が歓声に包まれている。カタンが倒され、その支配から解放されたのだ。人々が互いの無事を確認し、トラルン集落が喚声に包まれる。その中をリガンは走り抜ける。

 脇目を振らずに走り抜け、やがてリガンは目的地である、門近くの開けた場所にたどり着いた。

 そこには三人の男がいた。カタン、トルク、老人の三人。

 カタンは地面に倒れ伏せており、そのカタンを診断している老人。そしてその二人のすぐそばにトルクが立ち附している。

 トルクの顔は影になっており表情こそ分からなかったが、その背中は哀愁が漂っていた。


 リガンはその三人に近づく。そしてつく頃には診断が終わったのか老人がトルクに顔を向け、首を振る。

 カタンを診断していた老人にりガンは見覚えがあった。あれは確かトルクを診断してくれた医術士の老人である。

 その老人に会釈し、入れ替わりにリガンはカタンの側へと行く。

 カタンの側へとたどり着いたリガンは彼の姿を間近に見て、思わず息を飲んだ。

 カタンの体は血溜まりの上に横たわっていた。カタンの腹には、深い傷痕があり、そこから血が流れ出している。

 素人目で診てももう助かりようがない、その事が十分に分かるほどであった。

 目を見開き、リガンは声を出せずにいたが、そんな彼女に、横たわっているカタンが声をかけた。

 

「お嬢さん僕に何かようかい」


 灰褐色の髪を赤黒い色に染め上げ、苦しげに息をしながらカタンは口を開く。そして開いた口からは新たな血が流れでる。

 カタンはまだ生きていた。その事に一先ず安堵するリガンである。


 安堵したリガンは隣にいるトルクに顔を向け、目で合図した。

 それを受け取り、トルクは言葉を発することなくこの場から離れる。その場にはリガンとカタン二人のみが残った。


「質問が有ります。貴方はかつてキリヤルの副隊長だったというのは本当ですか」


 リガンは倒れているカタンの顔近くに座りこむ。そしてカタンはそんなリガンに顔を合わさず、青空である空を見つめたままであった。

 そんなカタンは口から血が流れ出ていることを気にする訳でもなく、言葉を発する。


「ひとついいかい」

「はい、何ですか」

「僕は君が嫌いだ。力の無い人間が嫌いだ」


 唐突の嫌い宣言に、リガンは若干口を尖らせる。


「力が無い……ですか。随分な言いようですね」

「……自覚無しかまぁいい。後で分かる事になるだろう」


 カタンは一息つく。きっと喉が血で詰まっているであろうに深々と息をした。


「僕が君の質問に答えるのは、僕が君の仲間に負けたからだ。敗者の立場はわきまえてる。その事を念頭に入れてくれ」

「分かっています、これが私の力で無いことも」

「私の力では無い……か」


 この時のカタンとの会話の意味がリガンには分からなかった。 

 この時のカタンとの会話を思い出し、その本当の意味を彼女が思い知るのはもう少し後の事である。

 意味ありげな会話の後、一息つくとカタンはリガンの質問に答えた。


「本当だ、僕はかつて都市キリヤルで第8番隊副隊長だった。それがなにか」


 先程の会話は何だったんだろうか、そんな事を頭の片隅に抱えつつ、リガンは更に尋ねる。


「じゃあ貴方は魔王がキリヤルに現れた時その場に居たんですか」


 その問いに初めてカタンはリガンに視線を合わさる。カタンの瞳には冷酷な、邪気めいたものはリガンには感じられない。しばらく見つめあい、そしてカタンは視線を外した。


「……僕はもう長くない。こんなに血が出てしまってるからね。だから君は余計なことを尋ねず、本当に知りたいことを尋ねた方がいい。おおまか勇者のことだろうとは思うが」


 自分の事を嫌いと言いつつも、答えるのはカタンなりの思いやりなのだろうか、そう思いながらリガンは彼の言葉に甘え、単刀直入に問う。


「貴方は魔王が倒された時キリヤルにいましたか」

「……正確にはキリヤルには居なかった。近くにはいたが」

「じゃあ魔王が倒れる前、誰かが都市キリヤルに入ってくるのを見ませんでしたか」


 先を急ぐようにリガンは尋ねる。それとは対照的にカタンは一語一語紡ぐように答えた。


「魔王はヤンク城に籠っていたから、正確にいつ倒れたか分からないし、それに都市キリヤルには毎日多くの魔剛が出入りしていた。だから君の問いには……いやそう言えば彼がいたな」

「彼?彼とは誰です」


 前のめりになりリガンは尋ねる。

 そんなリガンの反応を確認しつつ、カタンは答えた。


「そう彼、彼がいた。おかしいと思ったんだ、魔剛に連れられたわけでもなく、一人で都市キリヤルに入っていったから」

「その人の外見は覚えていますか」

「あぁ覚えているとも、顔はよく見えなかったが茶髪だったのは覚えてる。それに左右の腰に剣を二本もつけていたんだ、今時二刀流なんて珍しい。彼を左側面から見ていたから右に着けていた剣はよく見えなかったが、左にあった剣は赤かった。おそらくあれは黒髪の彼と同じく魔具だ」


 カタンはゆっくりとした口調で、都市キリヤルへ入った人の外見を語る。

 そのカタンの話にリガンは確信した、トレンさんが魔王を倒した勇者で間違いなく、そして都市キリヤルに行ったということを。これで心置きなく都市キリヤルを目指せるというものである。

 しかしリガンには気がかりがあった、確かにトレンさんは茶髪で、紅色の火属性の剣の魔具を左腰に着けていたがそれだけである。つまり一本しか剣は持っておらず、二本目など所有してはいない。

 それにトレンさんが一人で都市キリヤルに向かった、その事が気がかりであった。


 何故一人だったのか、仲間は、ミトレさんはどうしたのか。

 リガンは再びカタンに聞こうと口を開こうとする。しかし、彼女はカタンを見て、口を閉じざるを得なかった。

 時既に遅し。カタンの目は既に閉じられ、もう二度と開くことはなかった。

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