3.40 力無き者
「何やってんですかトルクっ!」
遠くから響く高い声はトルクの耳にも入り、トルクは動き始めた体を止め、声の方向へと向く。
声の主は遠くのカタンの住居である石造りの塔にいた。声の主、リガンは塔の最上階の窓から体をのりだしトルクへ声を届ける。
「私の役目は無事やり遂げました、次は貴方の番です。ですから、ですから勝って一緒に勇者を探しに行きましょう!」
自身の声がトルクに届いたかどうかリガンには分からないし、トルクとの仲も良いとも言えない。
しかしリガンはトルクの強さはこれでもかとぐらい見てきたつもりである。だから負けてほしくはなかった。
「なんだ君、勇者を探していたのか」
リガンの声が二人のいる地点まで届いたのだが、先に口を開いたのはトルクではなくカタンであった。
「それにしても……君はよくあんな女と一緒に居られるな。君には僕の相手をさせておきながら、自分は楽な道を取り、挙げ句に安全地帯から勝てと自身の願望を言うだけ。力が無い奴はこれだから……」
「力無き存在が悪だと言いたいのか」
侮辱したカタンの発言にトルクの目が変わる。元来鋭い瞳が更に鋭く、相手を突き刺す鋭利さへと。
「そりゃそうさ、力が無い奴等ほど糞な者はいない」
「そうか、そういう考えか……」
カタンの発言に何を見たのか、トルクは呟くように発言した後、カタン向け突進する。それは素人目でみても自殺行為であった。
そしてトルクとは違いカタンは醒めていた。待ち望んでいたトルクとの戦いは完全な満足感を得られるまでには至らず、さらに相手側の思考放棄の突撃に勝負は決したと感じたからだ。
カタンは冷静に慌てることなく杖をトルクへと向ける。
『白針』
冷徹と思える声でカタンは詠唱し魔術を放つ。
以前のトルクは立ち止まった状態で白針に集中しなければ、叩き切ることは出来なかった。それは走った状態では叩き切ることは出来ないということをも意味している。
つまりトルクが突撃を止めなければ、蜂の巣になるのは目に見えていた。それが分かっていたからこそカタンはトルクに失望の思いを禁じ得ないのである。
しかしカタンの思惑とは余所にトルクは蜂の巣となることはなかった。それも止まることなく。
なんとトルクは走りながらカタンの放つ白針の連弾を叩き切っていく。
その事に当然ながらカタンは驚く。止まっていないと切る事が出来ないからこそ、今まで白針の時足を止めていたのではないかと。走りながら切る事が出来るのなら何故今までそうしなかったと。
そんな思考と同時にカタンはあることに気がついた、トルクの体から血が流れていることに。
トルクの体から出る血、一体いつ、何処から出ているのかと。そこに思いを馳せた時、カタンはトルクが走りながら叩き切る事が出来る理由に思い当たった。
トルクはカタンの放つ白針を全て切っていないのだ。
ただ致命傷となりえる弾丸だけ叩き切り、それ以外の切り傷は省みないということである。
『切り裂け、刄!』
カタンに近づきつつ、トルクは白針を打ち落とす隙に再び氷の刄を打ち出す。
先程の氷の刄が爆散し、足を凍りつかせたことを鑑みるとカタンは安易に回避の行動を選択することは出来なかった。
それ故にカタンがとった行動は防御である。
『炎壁』
白針の攻撃を止め、カタンは自身を守るための炎の壁を前面に出現させ、氷の刄を蒸発させる。
しかし自身の視界を遮るその行為は悪手であり、そして戦闘において悪手の多くは致命傷へと繋がる。
炎の壁により視界が遮られ、トルクとの距離間を測ることが不可能であったのだ。
それ故にトルクの接近に対する対処が遅れた。
炎壁に向かいトルクの放った一閃は炎壁を真っ二つに割き、カタンの胴体を血に染める。
そして炎壁を割って現れたトルクの真剣な眼差しとは対照的に、斬られた筈のカタンは笑みをこぼすのであった。




