3.38 完璧などではない
住民たちが総出で反旗を翻した頃、陽が傾きつつあるなか、門近くの建物がない開けた地にてトルクとカタン両名は戦闘状態にあった。
トルクは門側にカタンは建築地区側に立っている。その距離ざっと20m。
そしてカタンはかつてトルクを吹き飛ばした白針という、無属性魔術によって高速で圧縮した空気を針のように尖らせ飛ばす魔術をトルクに向かって使ってくる。
しかも今度は何十本という針を連続して打ち出して。
それをトルクは一本一本、魔具の剣を用い叩き斬っていた。
流石のトルクもいつもながらの無愛想ではなく、唇を噛み締め耐えている。
しかしカタンの魔術がいつまでも止まない訳ではない。基本的に魔術を発生させる前には詠唱が必要である。
カタンの詠唱は呪文のように長々と言うものではなく、単語だけを言う、簡易なものでありそれだけ彼の魔術士としての才が高いことを示しているのだが、一対一のタイマンでは短い詠唱だけでも大きな隙となる。
やがて魔術が止み、カタンが次の魔術を唱えるまでの間、わずかながらに隙が生まれた。
そしてそれを見逃すトルクではない。白針の魔術が止むと同時にすぐさま前に出る。
静から動への切り換えは見事なまでであり、瞬時にカタンのまで後数mというところまで来る。
しかし後一歩及ばない。
『地圧』
カタンが短く詠唱し杖を振る。するとカタンとトルク両者間の地面に変化が起こり、土による柱が出現するとトルクに向かい高速で迫り来る。それをかわす暇なく、トルクはぶつかり後ろに押し出された。
勢いを殺せず、地面に転がったトルクであったが、当たる直前体正面に幾層もの氷の層を張らせたお陰で、体への衝撃を分散させる事に成功し、ダメージはないに等しかった。しかしカタンとの距離を再度広げてしまった事は痛かった。
「やはりそうか、君氷魔術しか使えないだろ」
トルクが寝転がった状態から立ち上がる際、体から剥がれ落ちた氷の欠片を見てカタンは話す。
そのカタンの問いにトルクは無言で答える。しかしカタンは無視された事を気にせず続きを話し始めた。
「魔具を見たのは初めてだが、話は聞いたことがある。武術と魔術、両術を扱うことができる道具があると。それだけ聞けば素晴らしい物なのだが実の所弱点がある。耐久性が他のと比べ低く、そしてひとつの属性しか使えない」
ひとつの属性という所をカタンは特に強調した。剣型の魔具を持つトルクの反応を見るためなのだが、そんなカタンの期待とは裏腹にトルクは無表情である。
若干の興醒めを感じつつもカタンは話を続ける。
「無属性は魔術の基礎として除くとして、それ以外のひとつの属性しか魔具は使えない。詰まる所君のは無と氷しか使えない訳だ」
図星である筈なのにトルクは表情を変えない。それならとカタンは別の話題に変える。
「魔具は武術と魔術、両術を使えるといったがそれを持つ使い手がそうとは限らない。第一大概の人は武術か魔術、どちらかしか使えない。両方を使える程に人は器用ではないからだ。それは君にも言える。君は両術使えるようだけどやはり練度の差がある。剣捌きの武術に比べ魔術はお粗末しか言いようがない」
「・・・何が言いたい」
カタンのまるで演説するかのような起伏ある声と比べ、トルクの声は起伏がなく淡々としていた。
しかしカタンにとってトルクが反応を見せた、それだけで十分である。
戦う相手として無反応では面白味に欠けるからだ。
「つまりさ・・・近づけさせなければ良いってことだ!」
薄い唇をつり上げると、カタンは叫びトルクに再度杖を向けた。




