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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第3章 支配と解放と……
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3.37 主役なしの戦場

 男が矢を放った瞬間、彼の軸足に何が当たる。


「なっ」


 ずらされ放たれた矢はハラルの頭上を越えていく。その事に戸惑いそしてますます怒りを強くした。二回も矢が外れたのだ。怒るのは無理ない話である。

 一体誰が自分の足を引っ掛かけたのか、矢を放った男は辺りを見渡す。そして自身の足元に先程までいなかった存在がいたのに気がついたのだ。


「皆お姉ちゃんの話を聞いてもん。お姉ちゃんは本当に皆を助けたいんだもん」


 やって来た存在、獣丸のラヒンは座っているトラルン住民に向かって口を開く。

 その事に一番驚いたのは他でもないリガンであった。


「ラヒン!待ってなさいって言ったじゃない。昨日とは訳が違うのよ」


 リガンはラヒンに向かい大袈裟に手を振り必死な思いで言い聞かせる。


 トルクとリガンがトラルン住民を助けに行くと決意した際、最初に決めたことはラヒンを置いていくことであった。

 獣丸の子供であるラヒンは戦力にならないというのもあるが、それ以上にこれ以上ラヒンに辛い目に会わせたくないとの思いがリガンには大きかった。ラヒンは獣丸であり今回の人間同士による問題には無関係である。

 そして自分を置いていくという案にラヒンは初めて反発した、お姉ちゃんと同じで僕も皆を助けたいと。

 それを何とか説き伏せて、リガンとトルクは出発したのだ。

 しかし二人は気づいていなかった。ラヒンは本当は諦めておらず、二人の後を密かについてきた事に。


「僕だって助けたいんだもん。皆苦しんでいるなか僕だけ休んでいる訳にはいかないんだもん」


 ラヒンは退かない。それどころか自分の思い、熱意をリガンにぶつけた。

 そして感情を優先させる傾向があるリガンにとって、ラヒンの思いは胸に響く。

 リガンとしてはラヒンがそこまで思っているとは思わなかったからだ。

 しかしそんなラヒンを快く思わない人物がいた。リガン、ハラル二人を仕留め損なった男である。


「お前ら……一体何処まで俺に恥をかかせる気だ!」


 目を血走りながら今度こそ許すまいと、足を振り上げ足元にいるラヒンをボールの如く蹴り飛ばそうとした。

 しかし今回も失敗に終わった。

 今度はひとつどころか幾つもの小石が足を振り上げた男に向かい、その内一つは顔面に当たった。

 直撃であった。鼻から血を出し、男は仰向けに倒れた。


「あんたラヒンちゃんに何するのよ」

「そうよそうよ身の程を知りなさい」


 リガンが視線を動かすと、ハラルと同じ集団に幾人もの女性が立っているのが見受けられた。その女性達にもリガンはハラル程ではないにしろ見覚えがある。

 彼女らは確かラヒンと仲良くしていた者達だった筈である。


「お姉さん無事だったかもん」


 嬉しそうな笑顔でラヒンは立っている女性達に近づき尋ねる。


「ええ大丈夫よ、そんな事よりラヒンちゃんが無事で良かったわ」

 

 ラヒンに笑顔を向けられた事に喜び、女性達は舞い上がりながら答える。はりつめた現場に不釣り合いな呑気さである。

 そしてそんな無法ものの行動にカタンの手下達が黙っているはずがない。

 先頭にいた男を倒された残る実行係達は、リガン・ラヒンそれとトラルン住民の中で反抗したハラルと女性達に矢を向けた。


「貴様らを反抗した罪として死罪とする!」


 力強くカタンの手下達は宣言した。しかしカタンの手下達が黙っていられないのと同様に、住民達もこれ以上黙る気はなかった。

 ハラルが行動を起こし、それに感化されたのか否か数人の女性が後に続いた。これを好機として何と言おうか。

 ハラルやラヒンの女性達に続いて、残っていた住民達が決起した。


「お前らいい加減にしろ」

「そうよ、あんたらなんかここから出ていけ」

「カタンの奴らにこれ以上好きにさせるか」


 住民達が実行係達に向かい一斉に小石を投げ始めた。

 元来から投石というのはバカにできない威力を持つ。それが大勢となればひとたまりもない威力となる。

 当然ながら実力係や監視係が鎮圧させようと暴力を奮い、それに住民達も抵抗し事態は乱戦へと向かった。

 監視係や弓兵隊は腰に着けてある剣を抜き、そして住民達は近くにあるスコップや角材を手に持ち闘う。

 やがてその波はトラルン集落全土へと広がっていった。


 一人一人の力量としてはカタンの手下共のほうが上ではある。しかしそれでもトラルン住民全員が一斉に決起すれば止められる筈がない。過去の反乱と同様相手側にとってカタンのみが頼みの綱なのだ。

 そして今カタンはトルクによって足止めをくらっている。その為状況はリガンの思う通りにこと運んでいた、ただひとつの点を除いて。

 リガンにとってラヒンが来たのは予想外だった。確かにラヒンが来てくれたお陰で住民達の反乱のきっかけを作ることが出来た。しかし反乱が始まってからはリガンにとって冷や汗ものである。

 獣丸は鋼鉄な背中だけをさらけ出す球体型になれば鉄壁の守りとなる。しかし子供であるラヒンは今だ体が完全ではなく、球体型となっても完全に衝撃から身を守る事は出来ないのだ。


 乱戦状態で右も左も分からぬ中、リガンは早々に球体型となりその場に止まっているラヒンを安全な所へ運ぼうと腰をおろし担ごうとした。

 この時リガンの注意が緩慢であったと言わざるを得ない。背後からカタンの手下が、リガンに剣を振り下ろそうとしていることに気がつかなかったのだ。

 音に気づきリガンが振り向いた時には、男が自身に向かい剣を振り下ろす直前であった。

 しまった、リガンがそう思ったのも束の間、男の後頭部に角材がぶつけられた。

 痛々しい物音と共にぶつけられた相手は仰向けになって倒れ、傍らには角材を手にもったハラルが立っていた。


「ざまぁないわね。さぁリガンあなたはその獣丸をつれて安全な所へ行きなさい」

「け、けど」

「けど何?自分が言ったことだから率先して闘わないといけないと思ってるの。大丈夫よ前回もカタンが出てこなかったら成功していたんだから。それにこれは私達の闘いよ」


 ハラルは手でリガンに行くよう指示すると、人混みの中へと姿を消した。

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