3.36 疑心暗鬼であるが故に
リガンが話をし、住民たちを蜂起させる。それが作戦の要である。
リガンらしい人の可能性を信じた甘い考えとも言えるのだが、トルクはこの作戦に不平を唱える事なく了承した。リガンとしてはありがたい事であるが、少しばかりあさっり了承したトルクの心情が気になる。
そんなこんなで実行したこの作戦であるが、この作戦の上で最大の障害はカタンである。以前ハラル達トラルン住民が反乱を起こした際それを止めたのはカタン自身であり、手下達ではない。その手下達と言えばカタンが動く前に住民達によってやられている。
故にカタンさえ何とかすればトラルン解放は現実味を帯びるのだ。
そして今カタンはトルクが足止めを行っているはずである。この状況下でリガンが行うべきこと、それはトラルン住民達を奮起させ反乱を起こさせることであった。
「皆さん聞いてください、私の名前はリガンと言います。詳しい事情は省きますが私達は皆さんを助けに来ました」
リガンの叫びに、トラルン住民は戸惑い互いに顔を見合わせる。
いきなり見知らぬ人がやって来て助けにきたと言われれば戸惑うのは当然である。
そして今住民達は半信半疑であった、やって来た少女リガンの真意が分からないからだ。
好調とは言えぬ反応にリガンはにわかに焦りだす。カタンの援軍がやって来るまでに反乱を起こさなければならないからだ。
「皆さん信じてください、助けに来たんです。皆さんの不安の元であるカタンは今私の仲間が止めています。だから反乱するのは今しか無いんですよ」
リガンの言葉は手応えを得る事なく空にただ滑りする。
カタンを止めているって言っても証拠すらない。そんな中自身の言うことを相手に信じさせる術はない。さらに住民達は過去の反乱が失敗に終わったことにより、この支配から脱すること事態を諦めかけていたのである。
「本当なんです、信じてください。今カタンの手は塞がっているんです。反乱を起こすのは今しか無いんです」
慌てながらリガンは叫ぶ。しかしその声は誰にも伝わっていないかに見えた。
その時足音が鳴り、近づいてくるのにリガン共々感じる。相手の援軍だと見ずともリガンには分かった。
「お前、両手をあげろ!さもなくば射つ」
実行係らが駆けつけ、リガンに矢を向ける。一人ならまだしも10人とあっては避けられようがない。
リガンは悔しさで唇を噛み締めながら両手をあげる。
そんな時であった。場違いな小石が空を飛び実行係達の先頭にいた者の頭にあたる。その弾みで矢が放たれリガンの脇を掠めた。
リガンは思わず石が飛んで来た方向を見る。そこはトラルンの住民達が座っていた。
否、その中で一人、女性が立っている。たなびく長髪の黒髪、その人物にリガンは心当たりがあった。
「皆リガンが言ってるんだ、ここは信じてまた反乱でも起こそうよ」
リガンは驚いた、昨日出会った人に農業地区とは違う建築地区で出会えるとは思わなかったからだ。
そんな中ハラルは周りを見渡して呼び掛ける。ハラルとしてもこの瞬間を見逃す訳にはいかなかった。
それに疑問であったリガンの脱走成功の秘訣も、カタンと同等の力量を持つ者がいるとなれば納得である。
しかし一人が立ち上がったといえ、反乱成功に疑心暗鬼である住民達は後には続かない。
「お前良くもやってくれたな!」
怒り心頭といった感じで小石をぶつけられた男は、今度はハラルに矢を向ける。
「止めてください、貴方達の目的は私の筈でしょ!」
悲痛な叫び声をリガンはあげる。
リガンとしても、自身の行動でまた他人を傷つけるは嫌なのだ。ラヒンと同じ過ちを繰り返す訳にはいかない。
しかし、リガンの声に男は無視する。
「嫌、カタン様の支配に逆らった罰だ。その罪は受けて貰う」
ハラルに向け男は矢を引き絞る。矢を向けられたハラルは美しい顔をしかめる。しかしそれでもハラルは謝ろうとはしない。
カタンの奴らに命乞いをするなんてハラルのプライドが許さなかったからだ。
そして男はハラルに向け矢を放った。




