3.35 見送った末路
黒髪の女性、ハラルはカタンを憎んでいる。
その為リガンが逃げ出したと知った時には、自分だけ逃げたとしてリガンを恨むわけではなく、カタンやその手下共に対しざまぁみろといった心境であった。たとえリガンの逃亡を手助けしたと誤解され、よりきつい労働場である建築の作業場である建築地区へまわされたとしても。
ハラルは今、昨日いた農業地区ではなく建築地区にいる。そしてそこには隣の農地で獣丸と仲良くしていた者達数名もいた。
恐らくハラルと同じ容疑をかけられここにまわされたのだろう。その疑問を確かめようにも今回の労働場所は厳しく、本人から事情を聞き出す暇など無かった。
こうして今日からハラルにとって新しい労働が始まったのだが、それも数時間たった後すぐに中止となる。
カタンの手下でありかつてハラルらの反乱に対し、対処していた実行係がやって来て監視係に耳打ちをする。
実行係が動くということは何かあったということである。反乱レベルの事態が。
そのハラルの予想は的中し、監視係から労働の中止と現場待機となった、無論監視係の監視つきであるが。
この時のハラルの心情は不安とは程遠い期待でいっぱいである。恐らく他の住民たちもそうであろう。
休めるということもあるがそれ以上にカタンに迷惑が及ぶことが嬉しかったのだ。
実行係が動くということはカタンにとって良からぬことが発生したということであり、カタンを憎むハラルにとってそれは喜ばしいことである。
しかしそんなハラルでも逃げるという思考には至っていない。前回住民総出の反乱の際、カタンによる実力行使がハラル自身思ってもいないほど堪えていたのだ。
カタンの力量を見た今逃亡しようなどと思う者は誰一人いないだろうと、心なしかハラルは思っていた。
そしてそれはリガンが逃亡に成功したと知った後でさえも。リガンの逃亡成功の疑問点として、どうやってカタンを撒いたのか、それだけがハラルの心に引っ掛かっている。
建築地区の全作業は中断され、ハラルとは他のグループも同じく待機となっている。
監視係により、囁き声すら許されない静寂が包み込むなか、トラルンの出入り口、門の周辺に場違いな音が鳴り響く。
何があったのか、ハラルは門の方向へと顔を向ける。そしてその視界にこちらに向かい走ってくる人影が入ってきた。人影は徐々に大きく、鮮明になる。そして現れた顔にハラルは見覚えがあった。
その者は昨日一緒に働き、そしてこんな地獄みたいな場所から初めて逃亡に成功した人物ある。忘れる訳がない。
やって来た人物は建築地区の中央、ハラル達のグループの右前に立ち止まる。
「皆話を聞いてください!」
息を切らしながら、建築地区にいる全ての人に聞こえるような大声で、やって来た人物もといリガンは叫ぶ。
そんなリガンに対し、ハラル達労働者を監視している監視係は手出し出来ない状態である。何故なら叫んでいるリガンを取り押さえようと出れば、自身の持ち場の労働者を見張れる者は居なくなり、逃げる機会を与えてしまうことになるからだ。
「お前は何者だ!」
「止めろ、さもなくば酷い目に会うことになるぞ!」
監視係が罵声だけをあげるなか、リガンは無視し話を続ける。リガンに与えられた時間は限られていた。何時なんどきカタン側の援軍がやって来てもおかしくはないためである。
そんな相手の援軍が駆けつけるわずかの間にリガンは成せねばならぬこと、それは住民達による反乱である。そしてそれこそがこの作戦の要であった。




