3.33 解放への奇襲
「暇ですね」
「あぁ暇だな」
カタンの手下でありトラルンの門の守衛を行っていた若者二人は強面でなく、朗らかな顔をしている。
そしてその顔つき故に監視係や住民たちが暴徒化した際鎮圧する役割となる実行係ではなく、守衛という余り者がまわされる役割につくはめとなった。
トラルン内外の警戒体制はトラルン各所に設置してある見張り台にいる実行係が内外を監視しており、守衛が行う仕事と言ったら人の出入りを確認する、ただそれだけである。
人の出入りと言っても出ていく人は外部での労働となった住民とその監視係であり、入ってくる人はその仕事終わりの人達。つまり朝と夜だけ人の出入りがあるため、今のような昼間はすることがなく暇なのである。
その為二人は特に何もせずただぼうっと外を眺めていた。
この時どちらかと言えば太った体型をした若者が何かに気づき、目線の先一面広がる草原へと指を指した。
「あれ、あそこ動いてないですか?」
「どこ、どこが動いてるんだよ」
指差す方向の草むらが動いていると言われ、細身の若者が必死になって見ようとする。
じっと観察した後、ようやく細型の若者にも草むらが動いているのを見ることに成功する。
「ほんとだ、動いてるなあれ」
「ねっ動いてるでしょ」
二人は呑気にそんな会話をしていた。
実際にこの二人には危機感がなかった。守衛である二人の仕事は奴隷同然である住民を監視する訳ことではなく、人の出入りを見る、ただそれだけである。
厳密にはその他にもトラルン外部を警戒する使命があったが、魔王倒され、魔剛が各地に蔓延するこの時代に旅をするものは少く、二人が守衛についてから招き入れたのは昨日の少女と獣丸の子供、それに寝たきりの男だけであった。
魔剛への警戒もあったが、数ヶ月前カタンによる防衛以来すっかり鳴りを潜めていた。
その為この二人には危機感が欠けており、逃げ出した奴等がまたやって来る、そんな考えなど持てないのだ。
「一体何処の獣がいるのやら」
細身の若者は望遠鏡を取り出すと、揺れている草むらを注視する。
そしてようやく草むらを動かしている正体が動物ではなく人であることが分かったのだ。相手はしゃがみながら丈の長い草むらにまぎれこちらに近づいて来ていた。
「まずい、まずいぞこれは」
「えっ何がまずいんです」
「何がじゃない、人がこちらにやってくるんだ。それも隠れながら。早くカタン様に連絡するんだ!」
そうやってトラルンが騒ぎ始めたのを見た後、隠れていたトルク・リガンは姿を表し、トラルン向かい走り出す。
この時トルクが先方、リガンが後方の形を取っていた。
そしてその姿を、呼ばれてきたカタンは確認することとなる。
今カタンは門から10m後方にいる。
そんなカタンの心に沸き上がるは逃げ出した者たちに対する憎しみではなく、強者相手への闘争心である。
カタンは餓えていた、相手を、より強き相手を。
己に巣くう闘争心を埋めるため都市キリヤルまで行き軍隊に入った。そこで実力のみで11個あるうちの1つ、第8番隊副隊長の座までのしあがったのだ。
軍隊という組織はカタンにとっては良かった。何故なら模擬戦という戦いを常に行えるのだから。隊長格はどれも自身より上であり、強者という存在に飢えることはなかった。
しかし魔王出現以降、その欲求を充足することが出来なくなった。
隊長達は殺された。魔王の手によって。そしてその魔王に会おうにも手下の大勢の魔剛達に囲まれてしまう。自身より弱者の存在に囲まれ殺されるなど、カタンにとっては想像するだけでも気がすまなかった。
そして魔王が居なくなった後、強者という存在は姿を消した。
魔王を倒したという勇者を探そうと試みた事もあった。しかし情報を集めれば集める程、勇者という存在が本当に居るのかどうか疑問視せざるを得なくなり、結果として勇者等という存在は人々が勝手に作り出した空想である、そうカタンは結論づけた。
そして強者がいなくなった事により、自身の闘争心を満たすことは出来なくなった。それを誤魔化す為チンピラどもの手下を作り、集落を支配し王様気分に浸ろうともした。しかし結果は変わらず、カタンの心は虚しいままであった。
そんな時トルクが現れたのだ。彼を相手にしたときカタンの闘争心に火がついた。自身と互角、それはもっとも闘争心を引き立てるものである。
そしてその続きをカタンは渇望した。出来ることなら手下共に手出しなどさせたくはなかった。
しかし立場上無条件に招き入れる事など出来るはずがない。
けれど手下に手を出させることを、そこまで悲観的にカタンは捉えていない。
何故なら手下共の妨害程度で倒れるならその程度の奴だったと言えるのだから。
カタンは門の側にある見張り台にいる者達に指示を出す。そして指示を受けた者達は手にしていた弓を構えるとトルク・リガンに狙いを定め、一斉に矢を放った。




