3.32 心変わり
「起きてお姉ちゃん、お姉ちゃんってばもん」
聞き覚えがある声と語尾でリガンは目を覚ます。目を開けると暗闇とはうってかわり、陽の光が目に射し込んできた。
そして影となり顔は見えないものの、見覚えのある輪郭がリガンの顔を覗き込んでいる。
「おはよう。あれ、でも私一人だったはずじゃ……あれ?」
「何を寝ぼけてる。本来ならとっくに起きている時間だぞ」
肩までしかない髪をかきながら、起き上がるリガンに、隣に立っていたトルクが話しかける。
そしてその事にリガンは驚き飛び上がった。
「えっ!トルク、何で貴方がここにいるんですか。それにラヒンも」
ようやく目を覚ましたリガンはあわてふためく声で、二人を順序に指差す。
指されたトルクは変わらず無愛想な顔であり、一方のラヒンは笑顔である。
「えへへ、お兄ちゃんが言い出したんだもん。お姉ちゃんを迎えに行こうって」
「ば、ばか何いってんだ」
ラヒンの発言をトルクは諌める。
しかしラヒンは半ば冗談として受け取ったらしく、笑っており、そして諌めたトルクも笑っていた。
いつの間にそんなに仲良くなったんだろう、それにトルク、あんな表情も出来るんだ。
リガンはそんな事を思いながら、やり取りをする二人を遠巻きに見つめていた。
「それでどうする、やはり考えは変わらないか」
ラヒンとの会話を止め、真剣な顔つきへと戻ったトルクはリガンに向き直り、発言した。
そんな彼の発言にリガンの意識は現実へと戻る。
「え、……はい。私の考えは変わりません。トラルンの人々を助けたいんです」
リガンは前のめりになり答えた。自身の思いをトルクに伝えるために。
それを受け、トルクが答えようと口を動かす。しかしその前にラヒンが二人の間に割って入ってきた。その小さな体でトルクを見上げながら。
「僕からもお願いするもん。お兄ちゃんトラルンの人を助けてほしいんだもん」
突然のラヒンの発言にトルクは無論のこと、リガンすらも驚いた。
そんな二人を尻目にラヒンは続ける。
「僕ずっと引っ掛かってたもん。あの人達はどうなるんだろうってもん。でも夜のお姉ちゃんの言葉を聞いて分かったもん。僕はあの人達を助けたいってもん。だからお兄ちゃん、力を貸してもん」
ラヒンの小さい体から出た熱のある思い、言葉にリガンは感動の二文字である。
自身の思いがラヒンに伝わり、そして動かした、その事実に。
そんなラヒンをリガンと同様見つめていたトルクは口を開いた。
「僕もその事で話しにきた。行こうかトラルンへ、人を助けに」
あっさりと言ったトルクの言葉にリガンは耳を疑う。
「……えっと、今なんて」
「トラルンの人々を助けるって言ったんだ」
トルクの発言に、リガンとラヒンは驚き、互いを見つめあった後喜びあった。ラヒンは高くジャンプしリガンにしがみつく。
「ほんとかもんお兄ちゃん」
「本当にいいんですねトルク」
それぞれ思い思いに口を開くリガン・ラヒンをトルクは手で制す。
「僕の話は終わってはいない。リガン、君に一つ条件を飲んでもらいたい」
「条件?いったい何の条件です」
突然のトルクの提案にリガンは目を丸くする。リガン自身トルクがどんな条件を出してくるか検討も付かなかった。しかしトルクがやる気になった以上、如何なる条件が提示されても飲み込むつもりである。
そしてトルクは条件について話し始めた。
「僕の出す条件はただひとつ、この事についての責任全ては君一人が負うこと、それが条件だ。僕は君の人助けには協力するが責任は負えない。それが呑めるなら手伝おう」
「その事なら任せてください。責任は私が負います。トルクには負わせません」
トルクの提案はリガンにとって朝飯前の物であった。
何故ならリガンはトルクの言う責任という言葉にはうんざりしていたし、そもそも責任という言葉を深く受け止めてはいなかった。
それ故にリガンは責任という言葉を全く考えていなかったのだ。考えていないからこそあっさりと受け入れることが出来たのである。
自信満々に答えるリガンを見てトルクはため息をつく。
それが安堵のため息なのか、不服のため息なのかリガンには分からなかった。
しかしトルクが人助けを手伝ってくれる、それだけは理解できた。
「それならいい。なら僕は君の計画に従おう。何か策はあるか」
トルクはリガンに計画の有無と、あった場合その計画の詳細について尋ねてきた。
しかしリガンと言えども考え知らずではない。トラルンの人助けを提案してから、今までの時間を使って既に計画を練っていたのだ。
そしてリガンは話し始めた。トラルン奪回のための算段を。




