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憎悪と感謝と……  作者: アッキー
第3章 支配と解放と……
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3.29 思いやれない者達

 トルクの放つ声に、一時リガンは言葉を失ったが、気を取り直すと直ぐに捲し立て始めた。


「命って、何をバカな事を言うんです。魔剛は物を奪えど命は取らない。そんなの常識中の常識、だからこそ人々は魔剛を嫌えど、駆逐するまではしなかったじゃないですか」


 早口でリガンは一般知識を話す。リガンとしては魔剛が命を奪い始めた事は聞いていないし、まして信じられなかった。

 それほどまで魔剛が命を奪わないというのは固定観念であり、不変の生態であるからだ。

 街に居座り続けた魔剛の件とは、比べ物にならないほどの突拍子である。

 そんなリガンに対しトルクはどこまでも無愛想である。


「知らないのも無理はない。その行為を行っているのは魔剛の中でも一部の奴等だけだし、襲われた者はみな命を落としてる。獣丸だって知らない情報だ」


 そう言いトルクは近くにいる獣丸であるラヒンに目を落とす。

 トルクに釣られリガンもラヒンに目を向けたが、そこで初めてラヒンが震えていることにリガンは気づいた。


「どうしたのラヒンこんなに震えて、何かあったの」


 リガンは腰を落としラヒンの前に行くと、彼に手を伸ばす。ラヒンはリガンの手を掴むと、目をつぶりリガンの手を包み込むかの如く体全体で抱き締めた。

 その手を通じてラヒンの震えがリガンに伝わる。

 そんな中、トルクは話を続ける。


「おそらくラヒンの村もその変異した魔剛に襲われたんだろう。普通なら生存者は残さない魔剛だが、獣丸の子供であるラヒンの小さな体はそんな魔剛の視線を掻い潜る事が出来たんだ。そのような訳でラヒンは何とか生き延びることが出来たんだと思う」


 隠されていたラヒンの故郷の謎がトルクによって明らかになる。魔剛と言う単語がトルクの口から出る度、ラヒンの震えはより一層大きくなる。

 それによりリガンはトルクの言う魔剛の変異が、本当の事であると思わざるを得なくなった。


「その魔剛達ががまだこの辺りにいるかもしれないからトラルンの人々を助け出す、つまりカタンを倒すことは出来ないとそういうことですか」


 トルクに視線を戻すことなく、ラヒンに手を預けたままリガンは尋ねる。

 珍しく、リガンの洞察力が発揮された場面でもある。そんなリガンを誉める訳でもなく、トルクは肯定する。


「そうだ。ここいらの草原でトラルンがあんなに目立った外観をしながら魔剛の襲撃から守っていられるのは、あの強固な柵のお陰というのもあるが、それ以上にカタンの魔術による功績だろう。あそこの住民達はカタンに命を助けられているんだ」


 トルクの発言には皮肉が込められている。住民達が敵だと認識していた存在が、本当は命の恩人だと言う皮肉が。

 確かに、ハラルも魔剛の襲撃からカタンが集落を守っていたと証言していた。

 しかしだからといって、リガンはカタンを許せる筈もなく、ましてその皮肉に浸れる気分ではなかった。トルクの発言はそのような理由でトラルンを見捨てると示しているためだ。


「だからトラルンを見捨てるんですか。魔剛が襲うとは限らないのに?」


 リガンはラヒンから手を離し立ち上がりトルクと向き直る。この時のリガンは本来の女の子らしさとはうってかわり険しい表情をしていた。

 そんなリガンにトルクはため息をつく。言わないと分からないのかと言った様相で。


「確かに魔剛がまだここにいるかどうか、ましてカタン亡き後のトラルンを襲うかどうかは分からない。しかしカタンがいればトラルンの人々は魔剛に襲われる心配はない。僕にはトラルンの住民達の行く末を左右する責任は持てない」


 トルクはこれまでと変わらることなくリガンの目を真っ正面から見つめ、何事も無いように話す。そんなトルクにリガンは腹が立つ思いである。


「だから見捨てるんですか、トラルンの人々を、困っている人々を。そんな責任という言葉で煙に巻いて自分は関係ないと言って」


 リガンのまるで責めるかのような発言に、変わらない表情だったトルクの目付きが険しくなる。


「君には分からないだろ、魔剛に襲われた者の気持ちを。肉親を奪われた者の気持ちを」

「トルクだって分かってないじゃない!、虐げられる者の気持ちを。自由亡き者の気持ちを!」


 トルクの声はまるで意識して気持ちを封じ込めているようである。

 それとは正反対にリガンの声は感情剥き出しであった。

 二人は己の経験から言葉を紡いでいた、そこには嘘などというものは存在しない。だからこそ、互いに相手の気持ちを汲み取れる。

 相反する二人だが、この時の軍杯はリガンにあがった。


 リガンの感情に押され、トルクは言いよどむ。

 この時のリガンの目には熱がこもっていた、絶対に助けるという決意の熱が。


「……だったら一人でやれば言い。そこまで言うのならば」


 目を背き、言い淀み出たトルクの言葉は、リガンを止めるどころか、後押しするものであった。

 そしてその後押しを受け、リガンはトルクから背を向ける。

 

「分かりました、だったら出ていきます。私一人でも必ず助け出してみせます」


 決意ある声音でリガンはそう言い残すと、隠れ場所である森林地帯から暗闇ただよう草原へと飛び出していってしまった。そして飛び出たリガンを引き留める真似をトルクはしない。

 リガン去った後、場には地面に目を落としているトルクと、不安で怯えているラヒン、二人だけが残された。

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