3.28 変革による変化
「トラルンを放っておくんですか!」
リガンの声にラヒンは驚く。リガンを良く知らぬ者にとっては驚く程に、唐突にリガンは声を荒あげたのだ。
しかしそんなリガンを良く知るトルクは、黙って立ち上がり彼女に向き直る。
リガンとしてはトラルンの現状、そしてそこに住む住民達がいかに苦しんでいるか伝えたつもりであった。しかしリガンの助けたいという思いとは裏腹に、トルクはトラルンの事を無視しようとするのだ。
リガンはそんなトルクの行為を見逃すことは出来なかった。
しかし、リガンのトラルン集落への熱意とは裏腹に、トルクの態度は素っ気なく冷たいものであった。
「その通り、僕はトラルンに肩入れするつもりはない」
「どうしてです、大勢の人々が苦しんでいるんですよ。助ける理由は有るじゃないですか」
リガンの訴えに対し、トルクはため息をついた。まるで言う事聞かぬ子供を見るかのような態度で。
そんなトルクの態度にリガンは苛つきつつも、今だ言っていないとっておきの情報を口にする。
「トラルン集落を支配しているカタンが、キリヤルの元副隊長だと言ってもですか」
「何?」
今度のリガンの言葉に、トルクの声量が上がる。
キリヤルといえば、リガンとトルク、二人が目指している場所である。しかし当のキリヤルは魔王の出現、以来一切の情報が流れておらず、現状がどうなっているか謎に包まれた。
しかしキリヤルの元副隊長なら知っているはずなのだ、都市キリヤルがどうなっているか。
言われた瞬間こそトルクは声をあげたが、すぐに落ち着きを取り戻す。
「いや、それは関係ない。僕はトラルンを助けようとは思わない」
冷静さを取り戻したトルクは冷徹に言い放つ。そんなトルクに対し、ますますリガンの怒りが募る。
「何故トラルンの人々を助けようとしないんです。何かワケでも有るんですか」
トゲがある声でリガンは尋ねる。しかしそう尋ねつつもリガンは理由を思い付いていた。
トルクが人助けをしない理由それは……。
「責任を負えない。トラルンの人々の責任まで僕は負うことが出来ない」
リガンが予想していた解をトルクは話す。
またそれかとリガンはため息つきたい気分である。
「どこに責任が発生するんです。トラルンの人々を助けたって責任なんか発生しませんよ」
リガンはトルクの言う責任についてうんざりしていた。その思想のせいで今まで自分が行ってきた人助けを非難されたからだ。
と、トルクを避難するリガンではあるが、彼女自身先程までラヒンに対して責任を感じていた。だからこそ、トラルン集落から、ラヒンを連れて脱出したのだ。
だが、その事は関係ない。この時のリガンは思考ではなく、感情によってトルクを非難していたからだ。
苛立ちが混ざっていたリガンの声に、トルクが反論する。
「責任ならあるさ、君が知らないだけで」
まるで全てを知っているかのような発言にリガンはますます怒りが募る。
「どこに有るんですか、トルクの言う責任は」
「魔剛は知っているな」
トルクは唐突に魔剛の名をあげた。しかし、その意図が分からない。
何故ここで魔剛?それがこの話に関連することなのか。リガンは疑問をトルクにぶつける。
「何でここに魔剛が出てくるんですか、それがトラルンでの責任と関係があるんですか」
何がなんだが分からないといった様相で、苛立ちを混ぜながらリガンは尋ねる。それを横目にトルクはいつまでも冷静である。
「魔剛が魔王が亡くなって以降生態が変わったことは知っているか」
「……支配していた街を出て行かなった魔剛の事ですか?」
「違う、別の事だ」
トルクは否定する。
リガン側からすれば、街を出て行かなかった魔剛の存在自体、今日トラルンで始めて聞き、驚きを感じたばかりである。それなのに、さらに自分が知らない魔剛の情報があるというのか。
いきなりの展開にリガンは置いてかれ、トルクのペースとなる。トルクは答え合わせをする親の如く振る舞いで、話し始めた。
「魔王の支配下から解放された魔剛族はこれまで奪うことがなかった物まで奪い始めた。それがなんだか知っているか」
「知りません。一体何が変わったと言うんです」
焦れったい様子でリガンは尋ねた。魔剛の知らぬ生態に自然とリガンの心が高揚する。しかしそんなリガンを冷まさせる言葉、単語がトルクの声から現れた。
「命さ」
感情を圧し殺したかのようなその一言に、一瞬でリガンの心は冷め、体には悪寒が走った。




