3.26 好敵手
動きが遅く、鈍くなる。それに伴い視界に入る物全てがとろくなるのをリガンは感じた。
まずい、咄嗟にリガンはそう思い焦てるが体が思うように動かない。この時カタンの杖から放たれた白き弾丸らしき魔術がリガンに向かい迫っていた。
トルクを吹っ飛ばしたカタンの魔術を初めて見たとき、あまりの速さにリガンはそれを肉眼で捉えることが出来なかった。しかし今は不思議とはっきりと、かつゆっくりとした速度で見ることが出来た。
しかしそれは当然の事ながら、リガンの反射神経がこの数分で劇的に上昇した事による恩恵ではない、
最初こそ何故スローで見えるのか、リガンには不思議に感じたが、迫ってくる魔術を避けようと体を動かしたとき気づいたのだ。
体が動かなかったのだ。いや、厳密に言えば非常にそれこそ止まっているかのような速度で肉体は動いていた。
そしてその現象にリガンは見覚えがあった。
幼き頃家族たちから、魔剛達への不満の避け口として殴られているとき、目に入ってくる光景がゆっくりとしていた。
まるで自分の体ではないかのごとく肉体は言うことを聞かず、ただ黙ってリガンは殴られ続けた。
しかし今回のは打撲傷だけではすまないとことぐらい、リガンは理解していた。
何せ人一人が宙に吹き飛ばされる程の威力なのだ。
カタンとは違いリガンは、トルクがあれほどの攻撃を受けてもなお、立っていられる理由を気づくことは出来なかった。
しかしこれだけは分かった、もしカタンの魔術をくらったらトルクとは違い、自分はただではすまないと。
リガンは避けようと必死になって体を動かそうとする。しかし視界と同様体も動きが鈍く、避けられそうにない。
こうしている間にもカタンの放った魔術による白き弾丸が自身に迫ってくる。
リガンは思わずにはいられなかった。ここで終わりなのか、まだトレンさんにも合ってないのにこんなところで?と。
しかしそんな思いとは裏腹に確実にその時は迫ってくる。すでに魔術による弾丸が目の前に来ていた。
駄目だ……リガンは諦めかけ瞼を閉じかけた時であった。
ガラス瓶が砕けたかのような音が聴こえたかと思えば、その音がかき消したの如くカタンの魔術が突如として消えていた。
その変わりに出現したのは氷の欠片である。欠片は光を反射しリガンの見ている景色を美しく染め上げる。
それと同時にリガンの体、視界が軽くなる。それは危機的状況が避けられたという証拠でもあった。
しかし自身に迫っていた筈のカタンの魔術が何故氷の欠片に変貌したのかリガンは検討がつかなかった。
リガンは足を止めると、魔術を放った本人であるカタンを見る。
しかしそこには今のリガン以上に驚いた表情をしているカタンがいた。しかし直ぐ見開かれていた目を細くし、眉間にシワを寄せる。一見すると不機嫌なように見てとれる表情であるが、彼の口角は笑みをこぼすかの如くつり上がっており、不釣り合いな印象を受ける。
そんな表情のカタンはリガンのいる方向とは別方向、門から離れた左へと向く。
それに釣られリガンもカタンの向いた方角へと向く。
そこにはトルクが立っていた、魔具である剣を振り下ろした格好で。
「何してる、早く行け!」
「あっはいっ!」
珍しいトルクの怒声にリガンは驚き、すっとんきょうな声が出る。
何が起こったか詳しくは分からなかったが、トルクが何かをし自分を助けてくれた、その点だけはリガンには理解出来た。
そんなトルクの行為を無駄にはしないため、リガンは今度こそ止まらないと固く決意すると、力強く地面を蹴る。
振り返ることなくリガンは走りづつけた。
そんなリガンをカタンは止める所か、一瞥すらせず見逃す。
今やカタンにとって逃亡者などどうでもよくなっていた。
カタンの目には自身の相手としてふさわしい好敵手としてのトルクのみが映っていた。
そんなことを知らずしてリガンはカタンの脇を通りすぎ、門を潜り抜け草原へと出る。
この時、陽は沈みかけ夕焼け空となっており、草原は黄金色から紅く染色し直していた。




