3.19 実力者
「カタンがキリヤルの副隊長ってほん……」
カタンが、キリヤルにある軍隊で、第10番隊副隊長をしていたという事実はリガンを大いに驚かせた。
そんなリガンの、驚き発せられた甲高い声はハラルによって遮られる。
ハラルはリガンの口を手で塞ぎ、もう片方の手の人差し指を自身の口に添える。静かにしろ、その意思表示であった。
リガンは目だけ動かし、監視係の方を見る。監視係は顔を一層険しくし、何か有ればすぐにでも駆けつけるといった様相であった。
リガンは手で大丈夫の合図をだし、口を塞いでいたハラルの手をどかせてもらう。
「何やってるの、そんなにカタンの素性が意外だったわけ」
呆れた様相でハラルが尋ねる。だが、リガンから言わせれば驚くのは当然である。
この時ハラル・リガン共に止めていた労働を再開していた。
「だってその話が本当ならキリヤルの生き証人ですよ、あのキリヤルの」
リガンが信じられないといった様相で尋ねるのも、無理ない話である。キリヤルは魔王出現以来から魔王討伐後の今日にいたるまで何の情報も流れていないのが現状である。
情報が流れていない、つまりはキリヤルの生き証人すら誰一人見つかっていないのである。
そのキリヤルの生き証人が存在しているというのだ。それはリガンらの旅の目的地であるキリヤルの情報を得るのに格好の機会でもあるのだ。リガンの感情が高ぶるのも無理ないのである。
「実を言うと本当かどうかはまだわかんないけどね、カタンがキリヤルの副隊長かどうかは」
リガンの熱の入りように、少しばかり場が悪かったのか、ハラルは申し訳なさそうな顔をし、後を続ける。
そんなハラルをリガンは離さない。
「本当かどうか分からないというのはどういう意味です」
リガンにとって重大な意味をもつ事柄である分、食い付き離す訳にはいかなかった。
そんなリガンの追随に、少し退いたものの、嫌な顔せずハラルは答える。
「噂になってるのさ、カタンがキリヤルの副隊長だったって。噂の源はカタンの手下の話を盗み聞きしたという所で本人に聞いた訳ではないから確実性はないけどね。けど私はこの話本当だと思う」
「どうしてです」
「ある時大規模な反乱を起こしたんだ私たちは」
明るかった筈のハラルであるが、その声は暗く表情も俯いた感じになる。
ハラルは記憶を辿るかのこどくたどたどしく言葉を紡いで行く。
「カタン達の支配についに耐えきれなくなった私たちは反乱を起こしたのさ、それも特大のをね。カタンの手下ども、特に実行部隊共は手強かったが、数に分がある私たちが押し通すのは難しいことじゃなかった。けどカタンそのものが問題だったんだ」
ハラルの顔は険しくなる。リガンは言葉を間に挟むことなく、静かに聞いている。
「カタンは魔術士だった、それもとびきり上物、いや上物なんて話じゃない、これは現実かどうか目を疑うほどだったよ。そのカタン一人に私たち反乱者、いや住民全員がやられたのさ。それ以降この有り様さ」
ハラルは空元気の笑顔を作り、片手を自分に指し示す。まるで反乱者の末路が自分であるかの如く。
「じゃあカタンが元キリヤル副隊長であると思う理由も」
「そこにある。あんな凄い魔術を見せられちゃ信じるほうが自然だって」
ハラルはか細い笑い声をたてながら答える。
お手上げだと暗に示しているのは言うまでもなかった。




