3.18 意外な生き証人
「あんたあそこにいる獣丸と一緒にきた人だろ。獣丸とはどういう関係なんだい」
リガンのもとにやって来た女性は声を潜めながら尋ねてきた。
腰まである長い黒髪と二十代と思える若い顔立ち。それだけ見れば打ち解ける雰囲気なのだが、しかしリガンとしては監視係が気になり、会話をすることが出来ないでいた。
実際リガンの後ろ側、農地から出たすぐの所にいる監視係を盗み見ると、係の人は険しい顔をしながらリガンらを見ていた。
しかし女性はそんな心配はご無用だと言わんばかりに、リガンに話しかける。
「大丈夫、ここいらの農場の開拓地区の奴等は甘い事で有名さ。そういう意味ではあんたは運が良かったね」
口角をつり上げる笑みを浮かべ、女性はリガンに話しかける。
しかし運が良いと言われてもリガンは喜ぶ気にはなれなかった。
そんな喜ばないリガンを今だ疑問が有るからだと女性は勝手に解釈し、追加説明し始める。
「甘いといっても大声でしゃべったり、手を止めたりしたら駄目だけどね。けど逆に言えば、それさえ護ってれば叱れることはないってことさ」
女性はリガンに対し説明する。確かに女性は来てから一度として手を止めてはいなかった。
しかし女性はそうでもリガンはそうではない。その言葉を聞きリガンは自身の手が止まっていることに気付いた。
監視係が訝しげな視線を送っていたのは会話をしていることに対しではなく、自身が手を止めていたからなのだ。
その事に気付いたリガンは女性に見習い、鍬を地面に突き刺し土を耕し始める。無論会話を止めることなく。
「先に指摘してくれれば良いのに、あのままじゃ監視の人に目をつけられていましたよ」
少しばかりの膨れっ面をしながらリガンは抗議する。それを女性は笑いながら受け止めた。
「悪かったって、実際本格的にやばくなりそうだったら注意するつもりだったんだよ。しっかしあんたまだ若いね、何歳?」
初対面の人に目を年齢を聞かれるのは好ましく思わないリガンであったが、避けれていた自分に声をかけてくれたこの女性に対し、少なからず好意を感じていた。
「16歳です。あなたは」
「若いね~。けどお姉さんに歳を聞くものじゃないよ。自己紹介がまだだったわね、私の名前はハラル。あなたは?」
「リガンです」
年齢をはぶらかされたことに対しリガンは怒りの類いを感じることはなかった。
ハラルと名乗る女性は二十代前半と思われる容姿をしており、腰まである黒髪はこのような状況下であっても美しくたなびいている。
しかしながら着ている服はぼろぼろであり、所々綻びていた。
服だけで言えば、旅人の身であるリガンの方が立派であるほどである。
そのような外見のハラルは、一番最初にした質問を再びリガンに質問する。
「それで話は戻るけどあの獣丸とはどこで知り合ったんだい」
ハラルは横の農地にいる獣丸に一瞥おいてリガンに尋ねる。
その質問にリガンは獣丸の名前がラヒンと言うこと、旅の途中で一人でいるところを見かけ、一緒に旅をしたことを話した。
と言っても実のところラヒンとの旅は半日もしていない。しかし本当の事を話せば、ラヒンの村で目撃した惨状を話さなければならず、リガンとしてはその事を安易に人に話してはならない気がしていたのだ。
話を聞き終わり、納得したのか、ハラルは質問してこようとはしてこない。
今度はリガンが質問する番であった、トラルンに起こっている問題に対して。
「質問してもいいでしょうか」
「いいよ、私に答えられることなら」
「私達今日ここに来てしまったんですけど、何故このような現状になっているんですか」
その質問に対しハラルは少し顔を険しくする。しかしだからといって気分を害した訳ではなく、ハラルは答える。
「あいつら、いやあいつと言ったほうがいいかな。あいつが来てからトラルンは変わってしまったんだ」
「あいつっていうとカタンですか」
「カタンを知っているの!」
リガンがカタンを知っていることにハラルは少なからず驚いた。しかしそんな彼女以上にリガンは驚くこととなる。
「知っているなら話が早い、そうさキリヤル第10部隊副隊長様のカタン様がやって来たのがそもそもの始まりさ」
ハラルのカタンへの説明は皮肉が込められていたが、リガンはそれどころではなかった。
何故ならリガンやトルクの目的地であるキリヤルの生き証人が存在し、かつその人物がカタンだというのが判明したからだ。




