3.17 農場にて
トラルンは大きく二つの領域に分けられる。
門がある前半部が住民達の住居を含む建築地区。中央にカタンの根城である塔があり、その反対側トラルン後半部には大規模な農場が存在している。
そしてリガンらはその農場入り口付近にたどり着いた。
「お前達にはカタン様への忠誠心の現れとして、ここの手伝いをしてもらう」
手伝いではなく奴隷としてだろ。リガンは心中で毒づく。
リガンのカタンへの憎悪は消えてはいない。しかしそれより大事な事は人々を助けだすことである。
そしてリガンの行いが災いし、この問題に巻き込んでしまった者が目の前にいる。
男は掴んでいたラヒンを地面に下ろすと縄をほどきラヒンは球体型から開放した。
縄をほどかれ頭を外部に晒すことが出来たラヒンは最初困惑した。
何故なら辺りの景色は一変し、室内から屋外へとでているのだ。
ラヒンが最後に見た光景はリガンが気を失う姿であった。ラヒンがその時感じたのは恐怖である。一人ぼっち、孤独というなの恐怖。
また取り残される、嫌だ嫌だ嫌だ。一人取り残されたラヒンは恐怖で体を縮み上がらせた。
そしてその恐怖に支配されていた為に、部屋に入ってきた男から逃げだす勇気を奮いだすことができなかったのだ。
その時ラヒンが取った行動は獣丸族だけがもつ防御形態である、貧弱なお腹を隠し硬質な鱗を纏った背中を外部に晒す球体型であった。そしてそこをつかれ身動きが出来ないよう縄で縛られた。
このような目に会いながらラヒンはリガンを憎んでいない。いやむしろ安心できる存在と言ってもよかった。あのひとりぼっちの村の時と比べ、傍らに人がいるのはそれだけで安心できるというものである。
しかしリガンにとってラヒンは忌むべき過去のような存在である。リガンは人助けを信条としている。そのリガンが人助けではなく、むしろ逆の行為をラヒンに対し行ってしまったのだ。リガンはもはやラヒンの目を見ることは出来なかった。
その為ラヒンがしきりに向ける視線にリガンは顔を背けた。
ラヒンに会わせる顔が自身にはないと思ったからだ。
「じゃあこれから具体的な内容を話すぞ。二度は言わんからしっかり聞け」
奇妙な関係になりつつあるラヒン・リガンに関心を向けることなく、男は説明し始めた。
トラルン集落での過ごし方から、奴隷的な意味合いの労働までありとあらゆる事を。そして男の説明によるとリガン・ラヒンはトラルン唯一の農場であり、目の前にあるトラルン農場で働く事になるようである。
もしクリーンな仕事場であるならば初日から働くということはないだろう。しかしここはカタンによる独裁が行われているトラルンである。無論常識という言葉はなく、リガンらは初日の昼間過ぎの肌寒くなった時間帯に働くこととなった。
トラルン農場はトラルン後方、半分の領土もある大規模な農場である。農場にはチークの原材料であるカリオの実や肉の食感が得られるドーブ草、そしてあろうことに麻薬植物として大多数の街で禁止植物にしていされているドートン草などありとあらゆる食材、禁止素材が揃っているように見受けられた。
その農場にてリガンは農場奥地の開拓地区へとまわされた。
そこには数名の女性が鍬を地面に突き刺し土を耕している。そしてリガンもそれと同じ仕事に着くこととなった。
農場地区も建築地区同様労働者を監視する者がおり、その者はリガンが働く農地にも存在していた。
その為みな黙々と仕事をしている。しかしそのような理由が存在していてもリガンは住居達に避けられているように感じられた。
確かに避けられて当然の理由がリガンにはある。何故ならこの時代魔剛の影響で旅人は極端におらず、トラルンに住民が増えることは今までなかったのだ。
その為トラルンに増えた新たな住民を警戒するのは至極当然の結果なのである。
しかし避けられている事実をリガンは特に気にしなかった。何故ならそれ自体はとっくの昔に経験したことであるからだ。
働きながらリガンは横の農地をちらちらと盗み見していた。何故ならリガンと共にいたラヒンはリガンの配置された横の農地に配属されたのだ。
ラヒンは獣丸族である、そしてトラルンは人間の集落。馴染めるかどうかリガンには心配なのだ。
しかしその心配は無用な物に終わった。
リガンが見たラヒンは人々に助けてもらいながら働いてた。
何せラヒンは獣丸であり、噂好きな種族。噂を手に入れるには他者と良好な関係にならればならない。その血筋は子供でありながら健在のようである。
その姿にリガンはほっと安堵する。
そしてそんなリガンに一人、近づいてくる存在がいた。




