3.16 権威の象徴
リガンは憎悪を抱いた、ここトラルンをこんな風に非人道的集落へと造り上げた張本人を。
しかしリガンには相手から逃げる手段には長けているものの、武力関連に関してはからっきしである。また勇者の事を考えた際、先程の考え方を訂正しなくてはならなかった。
リガンの尊敬する勇者は人々を助ける為に魔王打倒を志した。つまり魔王打倒はあくまで人々を助ける目的達成の為の手段でしかないのだ。
リガンは勇者を尊敬している。故に勇者と異なる考え方をしたくないのだ。いくらトラルンの住民達を奴隷のように扱う現状を作り出した張本人である黒幕が憎いとは言え、黒幕を倒すことを目的としてはいけないのだ。あくまでもそれは手段であり、目的は苦しんでいるトラルンの住民を救い出すこと。
リガンは現時点での思いを整理し、考えをまとめた。しかしそれにはひとつの空白がある。それはこの現状を作り出した張本人は誰かということである。
トラルンは人口が少ないとは言え、独裁で成り立っている集落である。無論抵抗は激しかっただろう。それを沈静化し、現時点まで治め続けるには余程の力量がない限り無理である。それを可能にする人物とは誰か。
しかしリガンには一人だけ心当たりがあった。それは……
「カタン様のご自宅である。無礼がないように通りすぎるまで静かにしているように」
出そうとしていた結論が他の者に言われた事にリガンは驚き、考え事に支配されていた頭を目の前の光景に切り替えた。
この時リガンらは楕円形の形をしたトラルンの門側、前半部にある建築地区を抜け、中心部に来ていた。
そこにあったのは驚愕というべき代物であった。なんと石造りで出来た塔が立っていたのである。
塔は円形の形をしており、住居四個分位の高さは悠々と有りそうである。
人間社会においてもっとも一般的な資材は木材であり、その為ありとあらゆる物が木造である。
その分石造りは希少価値が高く、リガンが知る限りで石造りの建物、及び街は都市キリヤルと、その中央部にあるヤンク城のみである。無論リガンはキリヤルに行ったことはなく、その為石造りの建築物を見るのはこれが初めての事であった。
カタンの事を忘れリガンはしばしその石造りの塔に目を奪われていた。
それほどまでに石が持つ力強さ、端麗さ、静的さはリガンにとって刺激的であり、魅力的であったのだ。
「凄い……」
気づいたときにはリガンは自然にそう呟いていた。誰に言うことなく。それを自分達へ言ったものだと勘違いしたのか、前方を歩いていた男が立ち止まり、リガンの方へ振り向く。男の顔は誇らしいといった笑みで満たされていた。
「分かるか、これが俺たちのカタン様への忠誠心の現れだ。この建物に相応しい強さがカタン様には持っておられる」
それから男はいかにカタンが凄いかだらだらと話始める。
カタンの事をこれほどまでに尊敬する男の忠誠心は立派であったが、それを聞く側にとってはどうでもいいことである。
男の話は終わらず長期化の様相を示している。リガンはそれを半ば聞き流していた。
それに加え自身の忠誠心によっているのか、男が自信満々に話す様を見てリガンは醒め急速に感情を沈静化させた。
その為リガンの意識は物珍しげな石造りの塔ではなく、そこに住まう者カタンへと移っていく。
独裁者きどりの黒幕は、トラルンの長と答えリガンらの前に現れたカタンであった。
その事に別段リガンは驚きはしない。しかし先ほどと同じ塔を見上げても、そのリガンの視線がこれまでとは違った様相を示すようになった。
羨望の眼差しではなく、憎悪の眼差しへと。




